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2021.12.27

【エルモ寄稿】購買フローとビジネスモデルから考える|D2CとSaaSが最強な理由について

Marketing Nativeでも取り上げる機会の多いD2CとSaaS。なぜその2つのビジネスモデルが注目されているのでしょうか。

今回は広告代理店で企業のマーケティング支援を行うほか、ニュースレター「Marketing Media Lab」が人気の匿名マーケター「エルモ」さんに「D2CとSaaSが最強な理由」について寄稿していただきました。

目次

[寄稿]
今回、いつも楽しく特集記事を拝読しているMarketing Nativeさんから寄稿依頼をいただきました。匿名アカウントの身でマーケティングについて書いていいのか?と大変恐縮ですが、私が最近気になっている疑問に自分自身で答える形で寄稿を書かせていただきたいと思います。

そのテーマが「なぜこうも多くの商売人やスタートアップが、D2CやSaaSに注力するのか?」です。

この問いを掘り下げて整理していくと、小資本や後発企業がD2CビジネスやSaaSに取り組む理由が見えてきます。

その理由とは、やや大胆な仮説ですが「サブスクリプション型のビジネスでは、マーケターが関与できる成長ドライバーの数が多いのではないか?」と考えています。

今回の記事では、

・なぜSaaSやD2Cでは、マーケターが関与できる成長ドライバーの数が多いのか?
・その事実がどうビジネスのスケール性に直結するのか?

という話について、考えを整理していきたいと思います。

※本記事では、D2Cビジネスは、単品リピート通販型のビジネスと定義させていただきます。

ビジネスにインパクトを与える変数のおさらい

どんな商売でも、売上を決める変数は究極的には3つしかありません。

「売上=顧客数×単価×購買頻度」

広義の意味で、マーケターとは事業成長に貢献するプロフェッショナルであり、それはつまり「3つの売上変数いずれか(または全て)にインパクトをもたらす」職人だと、私は考えています。

たとえば、
・低いCPA(顧客獲得単価)でお客様を集めてくるデジタルマーケターは「顧客数」に
・ブランドのプレゼンスを高め、価格を上げてもお客様が集まる仕組みを作るブランディング担当は「単価」に
・一度商品を注文したお客様に2回、3回目のリピート購入を促すCRM担当者は「購買頻度」に

など、プラスのインパクトを与え、売上(とそれに連なる利益)アップに貢献しています。

この売上3変数にインパクトを与えることがマーケターの仕事だと捉えたうえで、ビジネスモデル(商品の特性)別にマーケターが関与できる範囲について考えていきます。

以下2つの代表的なビジネスモデルで、購買フローを紐解きながら両者のビジネスモデルにどのような違いがあるのか紐解いてみます。

・単品売り切りのビジネスモデル(例:マス商材全般、ビールやオムツなどの消費財)
・SaaSやD2Cに代表されるリピートモデル(例:動画サブスクやサプリのリピート通販など)

一般的な単品売り切り商材のビジネスモデル

まずは、多くのビジネスが採用している単品売り切り型のビジネスモデルについて、そのビジネス構造を考えてみます。

ここで、顧客が商品を手にするまでのフローを見てみます。

私たちはつい簡単に「購買(CV)」と言いがちですが、「モノが売れる」瞬間にたどり着くには、いくつもの壁を突破する必要があります。

具体的には、以下3つの壁が存在しています。
認知の壁:商品を知っているか?
配荷の壁:顧客が商品を手に取れる状態にあるか?
プリファレンスの壁:数ある選択肢の中から、自社商品を選ぶ気持ちになるか?

図1:顧客が商品を選ぶまでの購買フロー

私は、この「認知・配荷・プリファレンスの壁」を効率よく突破させることこそがマーケターの仕事だと考えています。

さて、ここでひとつの疑問が出てきます。

単品売り切り型のビジネスにおいて、2回目以降の顧客の購買フローはどうなっているのでしょうか?

図2:単品商品ビジネスの顧客フロー

実は、2回目以降のリピート購入も図1で紹介した購買フローをイチからやり直すことになります。つまり過去に商品を買った既存顧客に対しても、「認知・配荷・プリファレンスの壁」を突破できるよう、あらためてイチ新規顧客としてマーケティング施策を打ち出していく必要があるのです。

図3:スーパーに並ぶビール類(画像はイメージ)

スーパーやドラッグストアで購入できる商品をイメージいただければ分かりやすいのではないでしょうか? ビールやシャンプーのような商品は、顧客のなかに「ビールを飲みたい!」「新しいシャンプーを買いたい!」というニーズが生まれた瞬間に、棚に並んでいる商品が一斉に「ぼく・わたしを選んで!」と顧客獲得競争をスタートします。

ここでは、1回目顧客と2回目以降の既存顧客の差は、「商品を実際に使ったことがあるか?」という体験情報がプリファレンスに加わっているだけで、ある種、横並びで顧客を奪い合っている状態です。

実際、バイロン・シャープ氏が『ブランディングの科学』で、ダブルジョパディの法則を提唱しています。

ダブルジョパディの法則

マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティもやや低い。

出典:『ブランディングの科学』(朝日新聞出版)

『ブランディングの科学』において「購買頻度は市場シェアに比例しており、マーケターは購買頻度をコントロールすることはできない」と断言しています。

図4:英国:歯磨き粉カテゴリー
出典:『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(著:森岡毅、今西聖貴、KADOKAWA、2016年出版)

図4は、歯磨き粉の市場シェア率と各ブランドの年間購入回数などを表したもので、『確率思考の戦略論』から引用させていただきました。年間購入回数はほぼシェアと相関する結果になっています。

既存顧客も購買フローの振り出しに戻る単品マス商材では、他社と比べて「自社だけ購入頻度が2倍高い」という状況を作り出すことは不可能なんです。

つまり、単品売り切り商材に関しては、ビジネス売上方程式のうち、マーケターは「購買客の数」と「単価」にしか関与することができないと私は考えています。

※厳密にいえば、「顧客数(シェア)」を増やすことに比例して、「購買頻度」を間接的に上げることはできます。しかし、売り切り型ビジネスにおいて、購買頻度は、マーケターが関与できない間接指標に過ぎず、直接的にはコントロールできない変数だと覚えておきましょう。

元USJの森岡毅さんが「消費者のプリファレンスを上げることに熱を込めろ」とおっしゃっる理由もこのためです。

SaaSやD2Cは購買頻度(リピート率)をある程度コントロールできる

次に、SaaSやD2Cビジネスでマーケターが関与できる範囲について考えてみたいと思います。両者は、顧客がtoBかtoCかの違いがあるものの、リピート型のビジネスモデルを採用している点で本質的にビジネスモデルは同じです。

私は、このリピート(サブスクリプション)型ビジネスの採用が、売り手・マーケターにとって非常にプラスに働いていると考えています。というのも、2回目以降の顧客の購買フローが、先ほど見た単品売り切り型の商材と大きく異なっているからです。

SaaSやD2Cも、最初の意思決定までは「認知、配荷、プリファレンスの壁」を突破する必要があり、ここまでは売り切り型のビジネスモデルと同じです。

しかし2回目以降の、顧客のフローが大きく異なります。

図5:リピートビジネスの顧客フロー

売り切りビジネスでは顧客との関係性がリセットされ、ふたたび既存顧客にも新規顧客のようにアプローチする必要があったのに対し、SaaSやD2Cは継続を前提として購入者へのアプローチをすることになります。

両ビジネスモデルで、2回目以降の顧客の選択肢は、以下のように異なっています。

売り切り型のビジネスモデル:
他カテゴリーを含めた無限の選択肢から「買う」「買わない」の選択を毎回行う 

リピート型のビジネスモデル:
同一商品を続けることを大前提に「続ける」or「止める」の選択を行う

以前どこかのインタビューで、森岡毅さんが「顧客が振るサイコロの目を、一つでも多く自社のものにせよ。事前にサイコロの目をいじっていれば、自社が選ばれる確率が高まる」という名言を残していました。

図6:リピート型ビジネスのサイコロイメージ図

ビジネスが顧客にサイコロを振らせ1回でも多く自社ブランドを出させるゲームだとすれば、リピートビジネスは「出目がすべて自社ブランドで埋め尽くされ、必ず勝てる状態に仕掛けられた魔法のサイコロ」を扱えることに近いかもしれません。

ここからもう少し、リピートビジネスの優位性について掘り下げてみたいと思います。

離脱率はビジネスに複利でインパクトを与える

リピートを前提としたビジネスは、顧客が2回目以降も一定確率で商品を購入し、会社にキャッシュをもたらしてくれる素晴らしいビジネスモデルです。

ここで肝となるのが、「継続率」です。

※SaaSではチャーンレート(離脱率)として、ビジネスの最重要KPI指標として扱われています。 

チャーン(離脱率)は、ビジネスにおけるサイレントキラーだ。早く対処しないと、まともに立つことさえできなくなる。
――プロフィットウェル社 創業者兼CEO パトリック・キャンベル

出典:『Product- Led Growth』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

なぜ、この継続率(離脱率)が重要かというと、この指標がビジネスに複利でインパクトを与えるからです。

たとえば、あるリピートビジネスで、初月に100人の新規顧客を獲得できたとします。毎月の離脱率が5%、10%、20%であった場合、その後12カ月間の顧客数推移のシミュレーションは以下のようになります。

図7:離脱率の違いによる既存顧客の推移

■12カ月後の顧客数
離脱率5%→57人
離脱率10%→31人
離脱率20%→9人

離脱率5%では1年後に50人以上が顧客として残っているのに対し、10%では31人、20%ではなんと9人にまで減ってしまいます。

ちなみに、このビジネスが2,980円のサブスク商品を提供していた場合、12カ月後の累積売上にはこれだけの違いが出てきます。

図8:離脱率の違いによる既存顧客による売上推移

 ■12カ月累計売上
離脱率5%→2,739,454円
離脱率10%→2,138,360円
離脱率20%→1,387,608円

このように、わずか数%の差が、毎月複利でインパクトを与え、顧客数・売上に大きな違いを生み出すことになります。

少し話が脇道にそれますが、リピート型のD2CやSaaSの大きな利点は、未来の売上の予測しやすさにあると思っています。

サービスの離脱率さえ分かれば、上記のように1年後2年後の売上シミュレーションを立てることができ、未来の売上(利益)から逆算して先行投資の予算を立てることが可能です。
※実際の売上シミュレーションでは、毎月増える新規顧客分も含めて想定する必要があります。

既存のお客様が定期的にキャッシュを会社にもたらすと分かっているからこそ、未来で手に入る利益から逆算して新規獲得のマーケティング予算に充てることができ、新規とリピートのマーケティング施策を好循環でまわすことができます。

ここで出てくる疑問が、「リピートビジネスにおいてマーケターは離脱率に関与できるのか?」です。

先ほど見たように、少なくとも『ブランディングの科学』では「マーケターは購買頻度をコントロールすることはできない」と言われています。

ここからは、筆者の持論ですが、リピートビジネスに限っては「マーケターはいくばくか離脱率をコントロールできる」と考えています。 

リピートビジネスにおいて、継続を決めるファクターは、商品・サービスの満足度が大半を占めています。そのため、プロダクト・サービスの品質が継続率(またはチャーンレート)の良し悪しを決めると言えます。

そのうえで、
・どのような文脈で商品・サービスを使うようになったか?
・商品やサービスに対する不満・不安がすぐに解消されるか?
・サービスの良さをしっかり理解されているか?

など、マーケターが携わるコミュニケーション領域でも、継続率向上・離脱率低下に関与できる余地があると思っています。

継続率を向上させた「北の達人」の取り組み

「北の達人コーポレーション」決算説明会(2019年5月28日)より引用

実際に継続率を上げた一例として、D2Cビジネスを手がけている「北の達人」の取り組みをご紹介します。「北の達人」は「びっくりするほど良い商品ができたときしか販売しない」を開発ルールに据え、多くの商品で高い顧客満足度を得ているD2Cブランドです。

そんな「北の達人」の決算資料に、コールセンターでの対応方法を改善したことで、継続率を向上させた実績が掲載されています。

「北の達人コーポレーション」2021年2月期 決算説明会より引用

「効果を実感できない」「使い切る前に次の商品が届く」など、解約を希望されるお客様に対して、商品の価値や使い方を丁寧にお伝えしたことで継続率が上がったと記されています。

顧客の不安・不満を解消するコミュニケーションを通じて、購買頻度(継続率)を上げるチャンスがマーケターに与えられている。これがサブスクリプションを軸にしたD2CやSaaSビジネスの大きな特徴だと思います。

※SaaSビジネスにおいて、チャーンレート(離脱率)を低下させるコミュニケーション手法は書籍『Product‐Led Growth』によくまとめられています。ぜひご一読ください。

まとめ

やや記事が冗長になってしまったため、ここまで書いてきたことをまとめさせていただきます。

大胆な仮説となりますが、「単品売り切り型のビジネスと異なり、SaaSやD2Cのサブスクリプションビジネスでは、マーケターも購買頻度(継続率・離脱率)をいくばくかコントロールできるのではないか?」というのが筆者の仮説です。

冒頭で取り上げたビジネス3変数のうち、

単品売り切り型ビジネス
→顧客数、単価

リピートを前提としたSaaS、D2Cビジネス
→顧客数、単価、購買頻度(継続率・離脱率)

と、後者のビジネスモデルでは、マーケターが関与できる変数がひとつ増える。この違いが、多くのスタートアップや商売人がSaaSやD2Cビジネスに舞い込む本質的な理由だと考えています。

図9:売り切り型とリピート型ビジネスモデルのまとめ

実際、購買頻度という成長ドライバーをマーケターがコントロールできることによって、

・中長期で売上基盤が出来上がる
・今後の成長曲線も見込みやすい
・スケールメリットが大きく、成長が指数関数的になる(特にSaaS)

となり、そもそものビジネスモデルの違いによって、他のビジネスと競争優位性が生まれているわけです。

今回、私が前々から感じていた「なぜ、みなSaaSやD2Cビジネスをやりたがるのか?」という疑問を自分自身に答える形で、ここまで記事を執筆させていただきました。

結論としては、仮説ベースではあるものの、「サブスクリプション型のビジネスモデルでは、マーケターがコントロールできる成長ドライバーがひとつ多いのではないか?」という考えに至りました。

今回お話しした仮説が正しいかどうかは、正直言って分かりません。少なくとも、マーケターの必読書と言える『ブランディングの科学』の定説には反しています。

最後、『ブランディングの科学』に対する個人的な意見をふたつほど添えて、この寄稿を終えたいと思います。

ひとつは、『ブランディングの科学』がマス商材、消費財を主なケーススタディにしており、サブスク型のビジネスにダブルジョパディの法則が成り立つかは現状分からないという点。

誰もがビジネスをスタートできる令和の時代に、「シェアが大きいブランドほど購買頻度が高く有利だ」という身も蓋もない法則は、小資本からビジネスを始める商売人には何の役にも立ちません。

それなら、マーケターが購買頻度もコントロールできる抜け道があってもいいのではないか?

その希望の光が、サブスクリプションを前提としたD2CやSaaSだと思っています。

ふたつめは、実際にマーケットと向き合うマーケターにとって、『ブランディングの科学』のようなエビデンスベースの法則がハッキリ出てくることを毎回待ってはいられないということ。

冒頭で申した通り、マーケターの使命は、ビジネス3変数にインパクトを与え、利益を創出することだと思います。実務の世界で生きていくマーケターとして、論の正しさを検証することもさることながら、(お客様を満足させたうえで)利益を生むことができればそれで良しと考えるのが私のスタンスです。

もちろん、先行している大先輩の知見や、過去の膨大なデータや研究から学ぶ必要もあります。

ですが、「現場で顧客やマーケットと向き合って自分に打ちかえってきた結果がすべて」です。このスタンスを忘れずに、私も日々マーケティングに携わっていけたらと思います。

長い文章を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

いまなぜSaaSやD2Cビジネスが盛り上がっているのか?

顧客の購買フローとビジネスモデルからその理由について考えてみました。何かしら、読者様の参考になれば幸いです。

 

 

 

 

 

Profile
エルモ
マーケ思考のキュレーター。ビジネス・マーケティングをトピックに扱うニュースレターMarketing Media Labが人気。広告代理店にて、企業のマーケティング支援も行っている。
Twitter:@elmo_marketing
ニュースレター:Marketing Media Lab
ブログメディア:マーケとキャリアの攻略法

参考図書:
『確率思考の戦略論』(KADOKAWA)
『ブランディングの科学』(朝日新聞出版)
『売上最小化、利益最大化の法則』(ダイヤモンド社)
『Product- Led Growth』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』(日経BP)

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