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「オールユアーズ」から学ぶ、顧客と価値を共創するブランドとは?【みる兄さんが話題のプロダクトを考察する連載・第2回】

最終更新日:2023.01.26

事業会社のマーケティング部門に所属する匿名マーケター・みる兄さんが話題のプロダクトを考察する連載第2回です。諸般の事情により初回から少し間が空いてしまいましたが、再びパワーアップして復活いたしました。今回は「HIGH KICK JEANS(ハイキックジーンズ)」『「着たくないのに、毎日着てしまう」Tシャツ』などのユニークな名称のアイテムや、24カ月連続クラウドファンディングを行うプロジェクトで知られるアパレルブランド「オールユアーズ(ALL YOURS)」を考察します。

ブランド論から紐解く「オールユアーズ」の魅力とは?ぜひご一読ください。

目次

 

Marketing Nativeでの寄稿は連載以外も含めて3回目、事業会社でマーケティング職に従事しているみる兄さんと申します。

今回のテーマは「顧客と価値を共創するブランド」です。

もし、「現在進行形で、顧客と価値を共創しているブランドは?」と聞かれたら、僕が真っ先にあげるのは「オールユアーズ」です。

今回は「オールユアーズ」のブランドとしての成り立ちを追いながら、ブランドと顧客との価値の共創について考えていきたいと思います。

「オールユアーズ」とは

「オールユアーズ」は、もともと、大手アパレル小売店で共に働いていた原康人氏と木村まさし氏が、「流行」に合わせた大量生産や大量消費をモデルとしたビジネスモデルに疑問を感じ、2015年に共同創業したアパレルブランドです。

出典:ALL YOURS

木村氏は「創業にあたって3つのきっかけがあった」と著書『ALL YOURS magazine vol,1』で語っています。
1つ目は、東日本大震災。当時、予測不能な事態に遭遇し、今までの価値観(消費をすることで何かを得ようとし、満足していたこと)が少しずつ崩れ去っていく感覚を覚えたこと。2つ目は、書籍『MAKERS~Makers: The New Industrial Revolution」(クリス・アンダーソン著)と出会ったこと。「欲しいものは自分で創れ!」という強いメッセージに衝撃を受けたと言います。3つ目が、アメリカ出張で出会った「サードウェイブ」系のコーヒーショップと「bean to bar」チョコレートのお店です。

この体験より前の自分の購買行動は、簡単に言うとこういうことだ。
「メーカーに与えられたものを、(メディアなどの)第三者の情報を見て買う」
当たり前の行動だ。でもさ、よくよく考えてみると何かがおかしいという気がしてきた。自分が良いと思ったものを、自分の意志で購入すること。そして、それを作る側にまわること。その喜びを体験してしまったら、もう元には戻れない…!

出典:『ALL YOURS magazine vol,1』(ABCブックス、木村まさし著)

また、原氏のインタビューによると、「ブランドの在り方」を非常に大切しているのがわかります。

原:株式会社オールユアーズのWEBサイトに書いてある「あたりまえをあたりまえにしない」というステイトメントをつくるのに、半年以上の期間をかけました。
展示会の話の時にもでましたが、お世話になっている投資家がいて「君達は多分成功するけど、成功した後も戻る場所となる言葉をつくりなさい」というアドバイスをもらいました。なのでステートメントが完成するまで、会社の登記もしなかったんですよ。

出典:世田谷ものづくり企業探訪 vol.8| 株式会社ALL YOURS(世田谷区池尻)「あたりまえは変えられる。アクションを起こし続ける株式会社オールユアーズの洋服づくり」

のちに「オールユアーズ」の主力となる商品を開発し始めていた原氏は、ステートメントが決まるまで、会社の登記をしなかったそうです。

そして、創業後に「オールユアーズ」が取り組んだのがクラウドファンディングです。
創業間もない2015年12月にMakuakeで「水を弾くコットンパーカーONE SWING PARKA」を販売し、約400万円を集めて話題になりました。

Makuake「高温多湿な夏を快適に!江戸時代から続く「涼しい」技術で、クールなTシャツをつくる」

翌年の5月からは、CAMPFIREで24カ月連続のクラウドファンディングを実施します。全15のプロジェクトで成功し、累計4000名弱、総額5700万円以上の支援を達成しました。

ALL YOURS × CAMPFIRE

その後、2020年のコロナ禍では、マスクが入手困難となる中、他の企業に先駆けて「キテテコマスク」を発売し、マスク製造方法を公開するなどの活動を実施。Zoomを活用したオンライン接客など新たな取り組みを行っています。

そんな「オールユアーズ」が特徴的なのは、ブランド名にあるように「あなた」が真ん中にあることです。ブランドのロゴも「ALL YOURS」の“U”がスペースの真ん中に位置しています。

すべては「あなた中心」であること

ALL YOURSの姿勢がそうであるように、このロゴもまた「常にあなた(U)が中心」にあってその立ち位置が決まります。ゆえにその位置は、時に世界の中心からズレているようにも見えますが、大切なのは世界の中心でも自分中心でもなく「あなた中心」であること。

ALL YOURSのロゴは、いかなる状況においても「使う人が中心」の精神は変えずに「発想や創造」は柔軟に変化していく、いわば「変わらずに変わり続ける」ことができるかたちです。これからもALL YOURSが「人」や「生活」に寄り添ったワクワクするものを生み出してくれることに期待して、彼らの姿勢の体現を試みました。

グラフィックデザイナー
田久保 彬(TAKUBO DESIGN STUDIO)

出典:ALL YOURS「ロゴに込めた思い」

ブランド名でもある、『すべては「あなた中心」であること』を最も体現しているのが、「オールユアーズ」がお客さんを「共犯者」と呼んでいることです。

木村氏は過去のインタビューで「僕は顧客という言い方が、一方通行な表現に感じてしまいしっくり来ませんでした」と話しています。「オールユアーズ」を支持してくれる人たちと販売者・購買者以上の関係を築くべく、商品のフィードバックなどにあえてお客さんが入る余地を残し、双方向的な関係性を表現する言葉として「共犯者」を選んだそうです。

「顧客視点」「顧客起点」などの言葉をマーケティング、ブランディングでは昨今よく耳にすると思います。一般的にD2Cブランドは、マスマーケティングをしているBtoCブランドよりも顧客との距離が近いことが強みであると言われています。そのため、多くのD2Cブランドが顧客と直接つながることで商品やサービスの改善を行っています。しかし、顧客との関係がデータ止まりで、共創までは至っていないブランドが多いような気がしています。

「オールユアーズ」は作り手と受け手という二元論ではなく、共にブランドを作る一員という敬意をもって、「共犯者」という言葉を使っています。また、過剰な顧客志向にならないように、ブランドを支持してくれる人、賛同してくれる人を「お客“さま”」ではなく「お客“さん”」と表現しています。木村さんを含めた「オールユアーズ」の従業員とお客さんはフラットな関係にいます。

また、「オールユアーズ」のクラウドファンディングへの向き合い方を見ていると、自分たちのプロジェクトの達成を目的にするのではなく、商品と思想を発信し、共犯者になりうる人たちに向かって「この指とまれ」をやっています。ビジネスとして話題を作ることよりも、クラウドファンディングを通じて集う人々との交流や、そこから生まれる文脈を大切にし、お客さんと価値を共創する関係を構築しています。

僕も過去にいくつかのクラウドファンディングで支援したことがあるのですが、商品の先行購入というメリットの訴求にとどまり、「オールユアーズ」のような継続的な関係構築までに至らないブランドも見られました。これは、ブランドのオーナー側の主語が強く出てしまい、オーナー側と支援者の間が分断してしまっているのが原因だと感じます。「オールユアーズ」のクラウドファンディングは、支援してくれた人もブランドの一員として、木村氏がSNSでコンタクトをとったり、地方イベントを共催したりとフラットで継続的なコミュニケーションをとっています。

「オールユアーズ」のクラウドファンディングはプロジェクト単位で終了するのではなく、支援し、参画してからスタートする関係なのだと思います。

「オールユアーズ」の共創をブランド論から紐解く

木村氏は過去のインタビューで、「木村くんたちって世の中のビジネスモデルの研究とかしていないでしょ?自分の肌感覚でやってるよね! そこが良いよね!」と家入一真氏(CAMPFIREの創業者)に言われ、「確かにそうだ。ただ行き当たりばったりで、逃げ場が無くなったときに答えを導き出してきてここまでやってくることができました。」と答えていました。

ご本人たちにとっては直感的だったのかもしれませんが、「オールユアーズ」は過去のブランド論と照らし合わせても、理にかなったモデルを作っていると思います。

ブランド論には、1990年代までに主流となる論調と2000年代以降で主流となる論調では異なる潮流があると言われています。

1990年代に展開されたブランド論は、ブランドの資産的価値(=エクイティ)の再発見を契機に、エクイティの源泉や強いブランドの構造を整理し、持続的競争優位を確立するための仕組みづくりに力点を置くものであった(Aaker 1991; 1996)。また、そのための理論的基盤として、消費者のブランド知識構造を解明し、「深くて広いブランド認知」や「強くて好ましく、且つユニークなブランド連想」といった望ましいブランド知識を形成するための枠組みづくりを目指していた(Keller 1998)3)

これに対して、2000年以降に展開されたブランド論は、単なる競争優位の追求だけではなく、価値の創造と獲得・維持を重視する立場から、ブランド価値の構造や顧客との関係性のあり方を問う議論へと変化していく。特に、脱コモディティ化の手段としてブランド構築の重要性が再確認される中、「ブランド・エクスペリエンス」(ブランドの経験的価値)や「ブランド・リレーションシップ」(顧客とブランドとの関係)が、ブランド研究の新たな視点としてクローズ・アップされ、大きな流れを形成していくことになる(Schmitt and Rogers 2008; MacInnis et al. 2009)。

出典:『「ブランド価値共創」研究の視点と枠組 : S-Dロジックの観点からみたブランド研究の整理と展望』(商学論究論文、 2013-03、青木幸弘著)

1990年代のブランドの捉え方は企業が主体で、ブランドとは消費者の選択を助け、競争優位性をつくるためのものであり、価値の提供は企業から顧客への一方通行、「モノ」を中心に考えられていました。しかし、2000年代に入り、「ブランドは顧客と企業が共に価値を提供しあう共創の関係から発展する」といった「サービス」を中心とした認識にブランド論も変化してきています。この変化を図示したものが下記です。

▲出典を参考に編集部で一部修正し、作成。
出典:Michael A. Merz &Yi He &Stephen L. Vargo. (2009). “The evolving brand logic: A service-dominant logic perspective” Journal of the Academy of Marketing Science,37(3),328-344

2000年代以降のステークホルダーに焦点を当てたブランド論の時代では、顧客自体がそのブランドのステークホルダーとしてブランド・コミュニティを形成し、ネットワークを構築し、ブランドが形成されています。この図はまさに、「オールユアーズ」におけるブランドと共犯者の関係と言えるでしょう。

イラスト:案・みる兄さん、作成・Marketing Native編集部
参考:Michael A. Merz &Yi He &Stephen L. Vargo. (2009). “The evolving brand logic: A service-dominant logic perspective” Journal of the Academy of Marketing Science,37(3),328-344

また、「オールユアーズ」が興味深いのは、お客さんを共犯者と表現するのと同様に、「オールユアーズ」自身が他のサービスやスポーツクラブを応援し、共犯者になっていることです。これは、2020年から始まった「スイッチスタンダードプロジェクト」というプロジェクトで実行しており、長野県のフィンランド式サウナ「The Sauna」やサッカークラブの「SHIBUYA CITY FC」、ホテル「HOTEL SHE, KYOTO」といった他のブランドとコラボレーションを実施しています。

画像提供:株式会社オールユアーズ

中でも「SHIBUYA CITY FC」とはスポンサー契約を結んでいます。まさに、「オールユアーズ」が他のブランドを応援し、ステークホルダーと共犯者になることで自らブランドのアイデンティティを体現していると感じます。

マーケティング担当者として、「オールユアーズ」から学べること

「オールユアーズ」をブランド・マネジメントの観点からとらえると、多くの発見があります。

ブランド論やブランディングでは、ブランドの統一感、一貫性の重要性を学びます。そのため、ブランドのレギュレーションを定め、管理・コントロールすることが必要であるとつい考えがちです。

ブランド・エクイティ管理システムの実施は、企業の最も価値ある資産の1つを管理するために必要不可欠である。

出典:『戦略的ブランド・マネジメント』(東急エージェンシー、ケビン・レーン・ケラー著)

しかし、「オールユアーズ」はブランドを管理するのではなく、お客さんにブランドを開放し、共に発信・行動することでブランドを成り立たせています。

「オールユアーズ」のブランドの捉え方を学び、書籍『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』を読んだ時と同じ衝撃を受けました。グレイトフル・デッドとは、1965年にアメリカのカリフォルニア州で結成されたバンドです。メンバーは5名から7名の間で変化し、音楽活動スタイルがユニークかつ多彩なことで知られていました。特徴的なのがそのライブ活動で、録音・シェア自由という革新的なスタンスで当時から異才を放ったバンドでした。グレイトフル・デッドはバンドの音源コンテンツをフリーで提供し、商用目的以外のコピーや加工を許可し、ブランドの管理をファンに開放したのです。

当時の僕は、企業ブランドのレギュレーションやトーン&マナーを定めたブランドルールブックの作成に携わっていたこともあり、「ブランドの管理をしない」というグレイトフル・デッドのスタンスに「これは特異なケースで、唯一無二すぎる」と思っていました。

しかし、「オールユアーズ」が発信し実践していたことは、まさにグレイトフル・デッドが行っていたことを現代風にアレンジしたものでした。

ブランドは誰のものでしょうか?「ブランドらしさ」「ブランドの世界観」「ブランドのメッセージ」…どれも企業が主語となっています。また、「顧客視点のマーケティングを」という論調も、顧客から着想した商品を作っているだけで、企業と顧客は一方通行になっているケースがよく見られます。

個人も情報起点となる現代では、ブランドは企業からの一方通行で成り立つものではなく、顧客との双方向性の関係で成り立っています。また、ブランドと顧客の関係だけでなく、ブランドと顧客、そして他ブランドも含めてステークホルダー全体で共創の関係を構築していく流れへと進んでいると思います。しかし、いまだに多く売るか、高く売るか、上手く売るかが中心で、顧客と価値を共創することをブランドの中心に置いている企業は依然少ないのではないでしょうか。

出来上がったブランド(プロダクト)を「どうやって伝えようか?」「伸びそうな市場がある」「あの他社商品をターゲットにしよう」という競争の視点ではなく、「この商品を使ってくれるお客さんは絶対に日々が幸せになる」「お客さんと共にブランドを育てていきたい」という共創の想いのもと、ブランドの原点からひたむきにやり切っている「オールユアーズ」は唯一無二の存在だと改めて感じました。

~あとがき~

木村まさし氏とは、直接お会いして何度かお話を伺ったことがあります。様々なインタビュー記事に書かれているとおり、自らも「オールユアーズ」のブランドを愛し、「オールユアーズ」を支持してくれる人たちをピュアに愛していました。過去に対談で、「ビジネスモデルやマーケティング、ブランドの理論などは学んだことがない」とおっしゃっていましたが、ブランドのアイデンティティをお客さんである「あなた」に置き、価値を共創する関係をつくる――これを実行している姿は事業会社の中の人として非常に尊敬しますし、理論ではなく自らの実体験から実行できる姿に嫉妬すら覚えます。

この記事を書くにあたって、「オールユアーズ」のブランドが生まれたきっかけ、そしてその想いとお客さんと価値を共創する関係のすばらしさを改めて知り、僕も共犯者となるべく、「SHIBUYA CITY FC」の着た着てTシャツを購入しました。

これからは共犯者として、「オールユアーズ」の今後の物語を楽しみにしたいと思います。

参考:
FINDERS「顧客ではなく共犯者。服を介したコミュニティを形成する、SNS時代のアパレル進化論|木村昌史(ALL YOURS)」

記事執筆者

みる兄さん

匿名アカウントなマーケター。事業会社のマーケティング部門に所属している。
X:@milnii_san
note:https://note.com/milnii
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