「リアルとオンラインが混在する新しい生活様式」「デジタルトランスフォーメーションの進展」など、コロナ禍をきっかけにこれからの時代を予測するさまざまなレポートが発表されています。また、同テーマに関するイベントや記事も多数見られ、いずれも大きな注目を集めました。
背景には戦後最大級の変化が確実視されることを踏まえ、「会社や自分は、生き残っていけるだろうか」という漠然とした不安があることは間違いありません。
ではマーケターは、来るべき次の時代をどのように捉え、そこに備えるべきでしょうか。
今回は、マーケティングや消費者行動に詳しい社会情報大学院大学教授で元電通総研・研究主席の四元正弘さんに、これから予測されるマーケティングの変化について話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧)
目次
マスマーケティングから「旗を立てるマーケティング」へ
――コロナショックを受けて、今後のビジネスや生活様式の変化に関するさまざまな予測が国内外から提示されましたが、それも一旦落ち着いた状況です。オフラインとオンライン、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みなど大体似たような話が多いと思いましたが、四元さんはどのようにお考えですか。
私はそうした予測に加えて、マスマーケティングから「Peer to Peer (P2P)マーケティング」「ピアーズマーケティング」への流れがさらに加速すると考えています。
Peersは発音を聞くと、「ピアース」と聞こえるのですが、ここでは一般的な表記に従い、「ピアーズ」としておきます。
――Peersは「仲間」という意味ですよね。
仲間でもいいですが、どちらかと言えば「同類」のほうが近いでしょう。ピアーズマーケティングの代表例としてはメルカリが挙げられます。企業が消費者に物を販売するのではなく、あるブランドや商品を好きな人が、同様にそのブランドや商品に興味を持っている人に有償で譲渡するビジネスモデルです。ほかにも近隣に居住する人同士が有償・無償で不用品やサービスを譲り合うジモティーなどもピアーズマーケティングと言えます。
メディアも同様です。例えば特定のYouTuberに興味を持った人がチャンネル登録して視聴し、コメントを寄せる行為も「Peer to Peer」と言え、テレビ局や出版社などのマスメディアが作品を一方通行で送り出すスタイルとは異なります。
マスマーケティングからピアーズマーケティングへの流れは以前からありましたが、コロナ禍で外出自粛になり、多くの人が自宅にこもってしまったことで、つながりを求めるピアーズ的な考え方が一段と強化されたと考えています。
――コミュニティやサロンのような活動がさらに盛んになるのでしょうか。その場合、ビジネスのスケールはどうですか。マスを対象にしていた経済活動と比較すると、規模が小さくて企業のビジネスとしては成立しにくいような気がしますが…。
それは考え方を変えればいいだけです。これまでのマス、大衆をターゲットとするビジネスは大きな網を投げるマーケティングでした。勝負する市場を選定するために、セグメンテーションやターゲティングなどの調査・分析を行い、獲物がいそうなところにできるだけ大きな網を投げて一気にすくい取るイメージです。
一方、ピアーズマーケティングは「旗を立てるマーケティング」と言えます。立てる旗が魅力的で高ければ高いほど、趣旨に賛同する多くの人たちを引き寄せることが可能になります。これは最近出てきた考え方ではありません。例えばAppleはスティーブ・ジョブズ自身が欲しい物を追求した結果、多くのユーザーを魅了し、獲得しました。まさに「旗を立てるマーケティング」の典型例です。
広く網を投げるマスマーケティングの衰退を受け、これからビジネスの主流になっていくのは「高く旗を立てるマーケティング」であると私は考えています。
イラスト:Marketing Native編集長・佐藤 綾美
ピアーズマーケティングのターゲットは「自分」
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