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インタビュー

編集長・山岡朝子に聞く「雑誌市場が縮小する中で、なぜ『ハルメク』は成長を続けられるのか」

最終更新日:2026.05.13

Special Interview #19

ハルメクホールディングス取締役

雑誌『ハルメク』編集長

山岡 朝子

雑誌市場が縮小する中で、成長を続ける異色の月刊誌『ハルメク』。現在、販売部数は46.2万部で、国内全雑誌中No.1となっています。

好調さの背景には、徹底した顧客理解と、情報コンテンツ・物販・コミュニティを一体感をもって設計し、読者の課題解決へとつなげる編集思考がありました。

編集者とは何をする仕事なのか。顧客の声をどのように価値へと変えていくのか。

編集長の山岡朝子さんに、キャリアの原点から雑誌作りのポイント、これからの展望まで幅広く伺いました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

思わぬピンチが教えてくれた「編集」の本質

――山岡さんは新卒で総合出版社に入社。7誌で編集長を務めたのち、2017年にハルメクへ転職して、編集長に就任されたとのこと。「雑誌編集者として生きていく」と決意するきっかけとなったエピソードはございますか。

新人時代はインテリア雑誌やホビー誌など複数の雑誌を兼務していました。

前職時代の山岡朝子さんの写真前職時代の山岡朝子さん

入社して半年くらいたったとき、インテリア雑誌で「読者のインテリア紹介」という6ページの企画を担当しました。テーマに合致する取材先を探し、ライターさんとカメラマンさんにお願いして撮影に行っていただいたのですが……、ようやく取材を終えて、カメラマンから上がってきた写真を確認すると、必要なカット数が不足しており、構成上どう工夫しても4ページ分くらいにしかならないことがわかりました。

私の依頼の仕方が甘かったわけで大慌て。編集長に「4ページに変更できないか」と相談する選択肢もありましたが、悩んだ末、冒頭の2ページを「イエス・ノー形式のクイズ」にすることを思いつきました。読者が「イエス/ノー」で回答していくことで好みに合うインテリアを判定し、その後に続く4ページを読み進めてもらう構成へと工夫したのです。

単純な手法ではありましたが、私がいた雑誌では当時そうした試みはほとんどなく、担当したページが、読者アンケートで1位になりました。そのときに「これが編集なのだ」と実感したのをよく覚えています。

もちろん、美しく質の高い写真が撮れていれば、適切に配置するだけでもページは成立します。ただ、そこにあえて写真の見せ方を工夫したり、アイデアを加えたりすることで、企画全体の価値を高め、読者により楽しんでいただける形にする。その点をとても面白く感じました。

一般的に、写真はカメラマン、文章はライター、イラストはイラストレーター、デザインはデザイナーがそれぞれ担います。「では編集者は何をするのか」と考えていた中で、試行錯誤して作り上げたページが読者アンケートで1位になった経験を通じて、「編集者とは、まさに“集めて編む”仕事なのだ」と腹落ちしました。この出来事が、自身のキャリアの方向性を定める大きなきっかけになったと思います。

――いきなりいい話ですね!ありがとうございます。続いて「顧客理解」についてお聞かせください。山岡さんといえば、「顧客理解」という言葉が象徴的に語られます。毎月約2,000枚に上る読者からのはがきを全部読むことをはじめ、アンケートや読者インタビューなどを徹底的に行い、それまでの「シニア誌」という位置づけから「女性誌」へと再定義した結果、部数を大きく伸ばしたことで知られます。

ただ、ひと口に顧客理解といっても実践は容易ではなく、単なる「御用聞き」に陥りがちな人もいます。その点はいかがでしょうか。

顧客の声を聞くことが「御用聞き」になってしまうのは、聞き方や解釈の仕方が浅い場合が多いのだと思います。私たちは、顧客の声をそのまま企画にすることはありません。スティーブ・ジョブズに「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで自分が何を欲しいのかわからないものだ」という言葉があるように、顧客は自分の欲求をすべて自覚しているわけではありません。だからこそ、最近の暮らしぶり、これからやりたいこと、今抱えている悩みなどを、角度を変えながら粘り強く聞いていきます。

そうして集めた声を踏まえた上で、編集者として「何を提案すべきか」を考え抜きます。想像力や企画力、提案力を重ね合わせながら、ようやく1つのページが形になります。そのため、例えば「腰が痛い」という声があったからといって、そのまま腰痛改善の企画を立てるという単純な話ではありません。顧客インサイトをどのように捉えて形にするか、そのプロセスが重要です。

取材時、テーブルに並ぶ『ハルメク』を写した写真

顧客理解の徹底と、継続して読みたくなる工夫

――シニア向け雑誌では、健康特集が大人気ですね。

健康は確かに大きなテーマの1つです。ハルメクの理念は「50代からの女性が『よりよく生きる』を応援する」なので、そのためにも健康は最大の資産です。ただ、だからといって、体にいい食べ物や体操など“健康になりそうな企画”をそのまま出せばよい、という考え方はしません。私たちは「なぜ健康の話題にこれほど関心が集まるのか」という本質を、より深く掘り下げます。

その結果、読者が健康を追求する目的は大きく2つに集約されることが見えてきました。1つは認知症になりたくないこと。もう1つは寝たきりになりたくないことです。でも、ここでも読者の胸のうちをよく想像しなければなりません。「認知症予防」や「寝たきり防止」などのテーマを特集にしても、読者にとって魅力的とは限りません。むしろ、あまり読みたいと思える内容ではない、目を背けたい内容とも言えます。

そこでさらに掘り下げ、「では何を提案すれば前向きに受け取っていただけるのか」「顧客はどう生きたいのか」と考え続けました。その中でたどり着いたのが、「一生自分で歩く!」という特集です。この企画は手応えも大きく、非常に人気になりました。

実際、顧客に直接聞いても「一生自分の足で歩きたい」という言葉がそのまま出てくることはほとんどありません。特集内にも“寝たきり”や“認知症”という言葉はあえて使っていません。そうではなく、「何歳になっても自分の足で元気に歩き、好きな場所へ行って、やりたいことができる」という明るいイメージを提示することで、「そうそう、私、それが欲しかったの!」と共感していただける。結果的に「寝たきりになりたくない」「認知症になりたくない」というインサイトに応えることができました。

――具体的には、どのように顧客の声を聞いているのですか。はがきをすべて読み、編集部で振り返りの会議を行うというイメージでしょうか。

振り返りの会議は、もちろん毎号行います。加えて、はがき以外にも、当社には「ハルメク 生きかた上手研究所」というシンクタンクがあり、さまざまな形で顧客の声を収集・分析しています。

はがきの場合、どうしても愛読者からの共感的なご意見が中心になります。一方で、「あまり面白くなかった」と感じた方の声にも、重要なヒントが含まれています。そうした声をきちんと拾うために、シンクタンクを通して、読者の中から毎号約1,000人を対象に詳細なアンケートをお送りしています。

アンケートでは、それぞれのページごとに「読んだか・読んでいないか」のほか、5段階での評価などを細かく確認し、その結果をシンクタンク側で分析します。そして、およそ1カ月後に編集部へフィードバックされる仕組みになっています。

――シビアですね。顧客理解以外で、編集長として意識されている編集方針はありますか。

『ハルメク』は定期購読の媒体です。たまたま書店で目に留まって読むのではなく、12冊、あるいは36冊と、継続して読んでいただく前提の雑誌です。そのため、突き詰めれば、これも顧客理解に行き着くのですが、「続けて読む意味」を大切にしています。

それは、週刊のマンガ雑誌のような「続きが気になる」という衝動とは異なります。長い人生にそっと寄り添い、伴走していく友のような存在でありたい、という思いに近いものです。

私自身、『ハルメク』に入社した当初は、読者層である70代前後の女性の方々は、すでにご自身の価値観が確立されていて、迷いや悩みはあまりないのではないか、と思っていました。ところが実際に向き合ってみると、まったく逆でした。子育てが終わり、ご自身あるいは配偶者の仕事もひと段落し、これまで役割だと思ってきたものが少しずつ終わっていく。それでも人生は20年、30年と続いていく。これから先、どう生きていけばよいのか、何を拠りどころにすればよいのかと、迷われている方が多いことに気づかされました。

実際に、「これからを生きるヒント」を求めて『ハルメク』を購読してくださっている読者もいらっしゃいます。だからこそ私たちは、新しい発見や学び、挑戦など、「何かが前向きに変わるきっかけ」を誌面にちりばめていくことを大切にしています。言い換えれば、読者の毎日に「something new」を届け続けることが、編集方針の1つの軸になっています。

2026年2月27日開催されたハルメクフェスタ in 新宿での様子の写真2026年2月27日開催されたハルメクフェスタ in 新宿での1コマ

顧客価値を最大化する、情報コンテンツ×物販×コミュニティ

――なるほど。それは雑誌をマンネリ化させず、読者を飽きさせない工夫にもつながりそうですね。

そうですね。定期購読を開始してくださる直接のきっかけは、当該月の大特集であることが多いのですが、10年近く継続して読んでくださっている方にお話を伺うと、「〇〇さんの連載のこの言葉が好きなんです」「〇〇さんのインタビューの△△の話に心を動かされました」という声をいただくことがあります。

毎月の大特集には、「旬の話題への関心」「今直面している悩み」「季節のニーズ」に応えるといった役割がありますが、それだけでは通常の月刊誌と同じになってしまいます。長く読み続けていただくためには、長期的な読者の夢、願望、幸福を共に考え、新しい発見や心に残る言葉、ふと気づきを得られるような企画にこそ価値があります。そのため、連載やインタビューはもちろん、小さな扱いに見えるページであっても、1つひとつ丁寧に向き合いながら編集することを大切にしています。

――これまでに、読者のインサイトを捉えたと実感された企画の代表例を教えてください。

『ハルメク』に入社してすぐの頃、ヘアスタイルの特集をしました。それまでの『ハルメク』は健康や年金などの特集が多く、ヘアスタイルや美容の特集はあまり見られませんでした。

しかし、顧客調査を重ねていく中で、多くの方が、体の部位のなかでは、ひざや腰よりもむしろ「髪」に強い悩みを抱えていることが見えてきました。そこでヘアスタイルの特集に挑戦することに決めたのですが、単なるヘアカタログでは意味がないと感じ、深く掘り下げて調査しました。

その結果、多くの方が月に1回以上の頻度で白髪染めをしていることがわかり、さらに大きく2つのタイプに分かれていることが見えてきました。1つは、とにかくしっかり黒く染めたい方。もう1つは、本来は手間やコスト、髪や頭皮への負担を考えると染めるのをやめたいものの、老けて見えることへの不安から、やむを得ず続けている方です。

そこで、「本当は染めたくないのに染めている方」に対して、第3のソリューションはないのかと調べたところ、当時、白髪を活かしたお洒落なヘアスタイルとして「グレイヘア」という言葉が広がり始めていることを知りました。そこで、実際にグレイヘアを実践している方やグレイヘアに詳しい美容師さんに取材を重ねて誌面で提案したところ、読者の方から「こんな選択肢があるのか」と驚きの声を多くいただき、大きな反響がありました。

さらに、その反響を受ける形で、美容業界の専門誌から逆に取材を受けました。美容室の現場でもグレイヘアを希望される方が増えつつあったものの、美容師の側でどのようにスタイルをつくればよいのか、またお客さまが何を求めているのかを十分に捉えきれていなかったようで、私たちの知見をお話しさせていただきました。

――美容業界から逆取材とは、すごい。それだけ深掘りできたということですね。

ありがとうございます。グレイヘアの企画を通して感じたのは、私たちは情報を届けることはできても、それだけでは完結しないこともあるということです。誌面では選択肢を提示できても、その先の具体的な行動まで支援することには限界があります。例えば、私たち自身が美容室を運営しているわけではないので、実際にグレイヘアに仕上げることまではできません。

そうした課題に対する1つの解決策として、イベントを実施しています。グレイヘアの例でいえば、誌面を監修した美容師の方にご協力いただき、「あなたの髪質であれば、こういうグレイヘアが似合いそうです」「美容室ではこのようにオーダーするとよいでしょう」と、参加者一人ひとりに直接アドバイスしていただく場を設けました。

さらに、商品開発にも取り組みました。ご自宅で自分で品のある印象のグレイヘアを実現できるよう設計した「ハルメク つや髪 プラチナグレイカラー」というヘアカラー剤です。

――なるほど。ハルメクの会社としては、雑誌より物販の売上のほうがずっと大きいという数字を見て、編集者としてのプライドや心情的な部分はどう折り合いをつけているのか、気になっていました。ただ、今のお話を伺うと、すべてがつながっているのですね。

売上や利益を計算する際には雑誌と物販を分けざるを得ませんが、ハルメクの本質的な事業モデルは、それらを一体として考えます。情報だけではどうしても“出しっぱなし”になってしまい、結果として課題の解決までつながらないことがあります。一方、商品だけでは顧客への提案や共感を作り切れないこともあるでしょう。

そこで、イベントを通して誌面の世界観を体験できる機会をつくったり、雑誌の提案を商品として手元で実践できる形にしたりすることで、それぞれが連動しながらトータルで顧客に価値を届け、悩みの解決や夢の実現に伴走できるのが『ハルメク』の強みだと思います。

Webメディア「HALMEK up」のトップページの画像Webメディアの「HALMEK up」

「HALMEK up」が担う、将来への備えと新規顧客の開拓

――ありがとうございます。続いて、Webメディアの「HALMEK up」について伺います。山岡さんも力を入れていらっしゃる領域だと思いますが、立ち上げの背景や、紙の雑誌との棲み分けについてはどのようにお考えでしょうか。

大きく2つあります。1つは、将来のシニア世代のデジタル化に向けた備え、もう1つは50代を中心としたプレシニア層の取り込みです。おかげさまで『ハルメク』は出版業界にあって部数を伸ばしている数少ない媒体の1つではありますが、業界全体で見ると、雑誌市場の縮小傾向は続いています。今後、現在の40代、30代といった、もともと雑誌にあまり親しんでこなかった世代がシニア層になったとき、紙媒体を手に取らない可能性は十分に考えられます。

そうした将来を見据え、コンテンツをWebで読むことが当たり前になる時代に対応するために、シニア向けにおいても、しっかりとしたWebメディアを育てていきたいという思いがあります。

――もう1つのプレシニア層の取り込みについてはいかがですか。

「HALMEK up」は、雑誌の単なるWeb版ではなく、独立した別のメディアとして位置づけています。

ハルメクはもともと「50代からの暮らしを応援する」雑誌ですが、今の50代は大きく変化しています。紙の雑誌も読む一方、日常的な情報収集はスマートフォンやPCで行う方が多い世代です。そうした層に向けて雑誌以外にも接点を広げ、『ハルメク』全体の顧客層の拡大につなげていくのが狙いです。

同じことが物販にも言えます。今の50代はインターネットでお買い物をする方が多いため、従来の紙のカタログだけではニーズに応えられません。そこで「HALMEK up」では、コンテンツと連動する形で、今どきの50代に向けたECサイトを5月からスタートさせました。こうした展開は、私たちのビジネスモデルを踏まえると、自然な流れだと思います。

――「HALMEK up」でもECサイト!ますます強力ですね。ありがとうございます。 

次に、話をガラリと変えて、山岡さんご自身について伺わせてください。多くの編集者がいる中で、ご自身の強みについてどのようにお考えですか。

大きく2つあると思っています。1つは、先ほどからお話ししている顧客理解に関する点です。『ハルメク』に入社してから意識するようになったというよりも、もともと人に対する共感性や想像力が強いタイプで、それがいわゆる憑依型マーケティングにつながったのだと思います。20代の頃から一貫しています。

編集長としてのキャリアの出発点は、一人暮らしの女性向け雑誌でした。24歳から25歳くらいのときに上司から機会をいただき、新しい雑誌として立ち上げました。

私自身、大阪から上京して一人暮らしをしていたのですが、当時の雑誌には、例えばパリのクリエイターの部屋のような、おしゃれで洗練された世界観のものが数多くありました。ただ、私を含めて多くの若者が暮らしていた狭くて不便な部屋とはかけ離れていて、どこか自分ゴトとして捉えきれない感覚がありました。

それなら、自分と同じような生活をしている人に向けた雑誌を作りたいと思い、そのときに1つのストーリーを描きました。主人公には「花子さん」という名前をつけています。

花子さんは地方から上京し、お給料の大半の8万円ほどを家賃に充てて、小さな部屋に住んでいます。部屋もキッチンもお風呂も決して広くはなく、憧れていた一人暮らしとは程遠い生活です。

朝家を出るときは「今日こそちゃんと自炊しよう」と思っていたのに、仕事で疲れて気力がなくなり、結局コンビニでお弁当を買ってしまった。真っ暗な部屋に帰り、誰もいない中でテレビをつけて、一人で黙々と食事。

そのあと、お風呂とトイレと一体になったいわゆるユニットバスで、「どうやって入るのが正解なのかな」と思いながら頭と体を洗い、ようやくひと息。時計を見ると、まだ21時。寝るまでにあと2〜3時間ある。まさにその時間に、花子さんが読みたいと思える雑誌を作ろう――そういう細かい情景や気持ちまでリアルに想像してコンテンツを組み立てられることは、私の強みかもしれません。

共感から生まれた編集の原点、悔しさから学んだ経営の視点

その上で、私は「花子さん」に毎回手紙を書くような気持ちで雑誌を作りました。

『花子さん、あなたの部屋は狭く、使えるお金も限られているかもしれない。でも人生を振り返ったとき、一人暮らしの時間はきっとほんの数年の、最高に自由で貴重な時間になります。今を大切にとことん楽しんで』
『花子さん、あなたのかけがえのない時間と部屋をもっと楽しくする方法を一緒に考えようよ』
『花子さん、狭いキッチンでも料理はできます。実は炊飯器でケーキが焼けるんです』
『花子さん、狭いユニットバスでも、ちゃんとリラックスできる方法が見つかりました』

――誌面はこんなふうに、「もっと楽しくできるよ」「こんな工夫もあるよ」と語りかけるようなものでした。

思い返すと、100%の愛とサービス精神をもって、ペルソナに深く共感し、その人の毎日が少しでも良くなることを願いながら雑誌を作っていました。

その後、働くお母さん向けの雑誌など、担当する媒体は変わっていきましたが、ターゲットが変わっても、ものづくりの手法自体は一貫して同じでした。読者の方が、今まさに少し大変だと感じていることでも、ちょっとしたヒントがあれば素敵な時間に変えられる、コンテンツの力で人生をよりよくできる――。そう信じて、雑誌作りに取り組んできました。

『ハルメク』でも同様に、「65歳の花子さん」を設定してコンテンツを作っています。結果として部数が3倍に伸びたことから、その手法を物珍しくメディアで取り上げていただくこともあります。しかし、私自身は、特別に新しいことをしているという感覚はなく、20代の頃から自然と実践していたことの延長にあるものだと思っています。

――すごいですね。勉強になります。もう1つはどんなことですか。

もう1つは、編集者でありながら、マーケティングや数字に強いことだと思います。

先ほどお話ししたように、20代の頃に一人暮らしの女性向け雑誌を立ち上げました。若い頃から雑誌の責任者として売上、コスト、利益を管理する立場になり、厳しい経験を積めたおかげで、単に「面白い雑誌を作る」というだけでなく、「売れる雑誌を作る」「利益を出す」という姿勢が養われました。

「業界や会社の仕組みを知り、数字の構造を理解し、自分でコントロールできるようにならなければ、コンテンツビジネスは成立しない」。この経験を、キャリアの初期段階で得られたことは非常に大きかったと思います。たくさん失敗もしましたが、そのたびに勉強して戦略を組みなおし、乗り越える強さも身に付きました。

その後、より体系的にマーケティングや戦略を学びたいと考えるようになり、30代でビジネススクールに通ってMBA(経営学修士)を取得しました。会計や財務など、編集者としてはあまり縁がなかった科目もあり勉強は大変でしたが、そのときに得た学びが、現在の編集や事業運営に生きていると感じます。

インタビューを受ける山岡朝子さんの写真

『ハルメク』が目指すパラダイムシフトへの挑戦

――最後に、これから山岡さんがどのようなキャリアを歩んでいきたいとお考えなのか、お聞かせください。

先ほどお話ししたように、これまで『ハルメク』以外にも、一人暮らしの女性向け雑誌や、働くお母さん向けの雑誌を手がけてきました。いずれにおいても一貫しているのは、「社会に新しいライフスタイルや価値観を提示したい」という思いです。

例えば、2000年前後は就職氷河期で若者のお給料も低かった。だから「一人暮らしなんて寂しくて不便なもの」「実家に住んでいる人のほうが余裕があって楽しそう」と思ってしまいがちでした。でも実は一人暮らしだからこそ得られる自由や豊かさがある――。そんな見方を提示したいと考えていました。

働くお母さんも同じです。創刊当時はまだ男性の家事参加度合いが低く、会社の働き方改革も進んでいなかった時代。「忙しくて大変」「一番損をしているのではないか」と感じている方も多かったけれど、仕事と子育てのどちらもあきらめずに人生を楽しむ充実感や、経済的な安心など、あえて多くのプラス面に目を向けて、雑誌を作りました。

『ハルメク』についても同様で、日本では、女性の若さに価値を置きすぎて、年齢を重ねることに対してネガティブなイメージもあります。しかし、本来はそうではなく、年齢を重ねることでこそ得られる自由や豊かさ、楽しさがあるはず。

そうした前向きなものの見方、新しい価値観を発信していきたいと考えています。視点を変えることで、世界が前向きに変化するような、ある種のパラダイムシフトを届けたいのです。『ハルメク』には、それができると思います。

そして、その価値観に触れた若い世代の方々が、「60代、70代の人たち、なんだか楽しそうで素敵だな」と、自分の未来をポジティブに捉えられるようになれば、社会全体も明るくなるのではないでしょうか。そんな「新しい高齢化社会」観を、『ハルメク』を通して実現していきたいと思います。

――本日はありがとうございました。

山岡朝子さんの写真

Profile
山岡 朝子(やまおか・あさこ)
株式会社ハルメクホールディングス取締役。雑誌『ハルメク』編集長。
大阪大学卒業後、総合出版社に入社し編集業務に携わる。2004年から13年間、主に生活実用誌やインテリア誌など7誌の編集長を歴任。2017年に株式会社ハルメクに入社。同年8月より『ハルメク』編集長。部数を5年で3倍に成長させる。2021年株式会社ハルメクホールディングス取締役に就任。

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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