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インタビュー

司法をもっと身近に――弁護士ドットコムがChatGPTを活用した「チャット法律相談α版」をいち早くリリースした理由

最終更新日:2023.07.24

弁護士ドットコム 取締役・弁護士

田上 嘉一

ポータルサイト「弁護士ドットコム」などを運営する弁護士ドットコム株式会社が、ChatGPTを活用したAI法律相談チャットサービスを2023年5月12日より提供開始し、注目を集めています。「弁護士ドットコム チャット法律相談(α版)」(以下、チャット法律相談α版)は、離婚・浮気・金銭トラブルなどの男女問題に関する相談を相談者が入力すると、チャット形式で自動的に回答する無料のサービスです。

ChatGPTが生成する文章にはファクトの精度面で課題があることから、ビジネスでの活用に二の足を踏む企業も少なくありません。そんななか、弁護士ドットコムはいち早くチャット法律相談α版をリリースしました。弁護士ドットコムはなぜこれほど早くリリースできたのでしょうか。また、リリース後に得られた実際の反響はどうでしょうか。

弁護士ドットコム株式会社 取締役(弁護士ドットコム事業管掌)・弁護士の田上嘉一さんに話を伺いました。

(取材・文:和泉ゆかり、撮影:矢島宏樹)

目次

法律相談のハードルを低くし、「2割司法」解決を目指す

――「チャット法律相談α版」の開発背景を教えてください。

誰もがより気軽に法律相談できることを目指して開発しました。

日本では法律トラブルに巻き込まれた人のうち、2割程度しか弁護士に相談できていない『2割司法』と呼ばれる現状があります。理由のひとつとして挙げられるのが、弁護士に相談することのハードルの高さです。悩みを抱えていても、「こんなことを弁護士に相談してもいいのか」「相談料が高そう」と、なかなか相談できない方が少なくありません。

――確かに「これは弁護士が対応する案件なのか。相談して断られたらどうしよう」と思ってしまう人は多そうです。

そうした状況を変えたい想いから、私たちはこれまで無料で弁護士に相談できる掲示板型サービス「みんなの法律相談」を運営するなど、インターネットの活用により法律相談のハードルを下げることに挑戦してきました。

さらに今回、ChatGPTを活用したチャット法律相談α版をリリースしたことで、より気軽に相談できるようになったと思います。

弁護士ドットコム株式会社 取締役・弁護士の田上嘉一さん

以前から、法律サービスとAIは相性が良いだろうと感じていました。例えば「離婚したい」という相談に対して、法律や判例などの大前提に当てはめて回答を出すのが法律の考え方だからです。それは弁護士に相談する場合も同じこと。相談者の悩みと関連する法律を照らし合わせ、法律的な回答を提供する作業は、いつか機械が補えるようになるだろうと考えていました。

しかし、これまでのAIは画像処理や統計処理は得意である一方、文章生成には課題があり、例えばAIチャットボットで通り一遍の回答はできても、複雑な対応は難しいことから、実用に耐えないと思っていました。

そのためChatGPTの登場は、インターネットに匹敵する大きな変革が起こる可能性を感じるほど衝撃的でした。まるで中に人間が入っているかのような自然な回答を見て、「これなら法律サービスで活用できるかもしれない」と思ったのです。2023年が明けてすぐに「ChatGPTを活用したサービスを作ろう」と役員会議で議論を開始。「みんなの法律相談」にこれまで寄せられた125万件以上の相談のうち、「離婚・男女問題」カテゴリのデータを使用し、5月にチャット法律相談α版をリリースしました。

クオリティを担保したサービスを短期間で出すために

――年明けから議論を始め、5月にα版をリリースするなど、プロダクトの開発をスピーディーに進められた理由は何でしょうか。

代表の元榮(もとえ)の強いリーダーシップによるところが大きいと思います。サービスの開発のために新たな組織を作り、いつリリースするかを決めてアクションを起こしました。

スピード感を重視したタイムスケジュールの場合、できることはある程度限られます。そのため、「あれもこれも」と手を出すのではなく、やらないことを選択して短期間でリリースできるようにしました。また、チャット法律相談α版が出す回答によって、ユーザーの人生を変えてしまう可能性もあります。限られた時間のなかで、テストを繰り返したり、弁護士の先生にフィードバックをいただいたりしながら、質を担保し、生成する回答の精度を高めるようにしました。

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・大切なのは、新しいものにいち早く触って学習すること
・チャット法律相談α版は、あくまで法律相談の入り口
・司法をより身近にするため、弁護士業務のDX支援にも注力

記事執筆者

和泉ゆかり

いずみ・ゆかり
IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。
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