ビジネスの世界は2023年、生成AIの話題で持ち切りです。「業務が効率化されて生産性が上がる」「便利になる」と歓迎する声の一方で、「AIによって10年後、なくなる仕事ランキング」のような記事が注目されるなど、今は期待と不安が半々という人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、日常業務から生成AIを活用しているというブランディングテクノロジー執行役員 経営戦略室 CMOの黒澤友貴さんに「生成AIの進化でマーケティングの仕事の変わること、変わらないこと」をテーマにご寄稿いただきました。
黒澤さんがどのように生成AIを活用しているのか、そしてどんな未来を予測しているのか。ぜひお読みください。
目次
【寄稿】
本記事では、生成AIがマーケティングの仕事に与える影響について、筆者が直近3ヶ月で実践を通じて学んできたこと、生成AIがマーケティングの未来にどのような影響を与える可能性があるのかに関する考察をお伝えしていきます。
生成AIでマーケティングの何が変わったのか?
生成AIの登場により、マーケティングの仕事の進め方は確実に変わりました。もちろん、根底の考え方は簡単には変わりませんが、仕事に使う時間、取り組む領域は3ヶ月ちょっとで大きな変化を感じています。
まずは、筆者の具体的なマーケティング業務の変化をご紹介します。
マーケティングワークフローにおける生成AI活用の全体像
マーケティングのワークフロー全体像の中で生成AIを活用するイメージを図で整理しました。どの領域の仕事においても、生成AIの影響があると考えており、筆者は全領域で生成AIを活用しています。
効率化できている領域だと、時間は1/10で処理できる仕事も出てきています。また、今までアシスタント(人)に依頼をしていた領域も、生成AIを活用することで、1人でアウトプット作成ができている点も大きな変化です。
具体的に、マーケティング調査と戦略策定の2つの領域において、生成AIをどのように活用しているのかをご紹介します。
1. 調査業務における生成AI活用例
ユーザーリサーチに関して、下記フローをもとに生成AIを活用して業務効率化を図っています。
活用しているプロンプト例もご紹介します。
◆ [顧客像]に対してユーザーインタビューを実施したいと考えています。 目的は下記の通りです。
ユーザーインタビューの設問内容を一緒に考えてもらえますか? プロンプト例 |
◆ 上記の質問に対して、想定回答と、その回答に対してどのような深掘りした質問をするべきかのアドバイスをお願いします。
プロンプト例 |
◆ ペルソナは、下記のような発言や行動をとっていることがわかってきました。下記の情報をもとにペルソナとカスタマージャーニーマップの情報を更新してください。
インタビューからの発見内容は下記の通りです。
プロンプト例 |
ChatGPTを活用すれば、ペルソナやカスタマージャーニーを作成することは可能ですが、
- 1次情報は自分でとること
- 1次情報の中で重要な要素は人が見極めること
は大切です。
1次情報抜きにChatGPTにそれっぽいアウトプットを出してもらうだけでは、前提要件や情報が抜け落ちているので実践では使い物になりません。
2. 戦略策定における生成AI活用例
筆者が考案をした「マーケティングトレース」はマーケティング戦略を考える力を磨くトレーニングです。
このマーケティングトレースの戦略を考える流れも、ChatGPTを活用することで効率的に考えることができます。
プロンプトをご紹介します。
◆ [業界名]+[トレース企業名]のマーケティング戦略を整理していきます。これから伝えるフレームワークを活用して、基本戦略の整理を手伝ってもらえますか?
マーケティングトレースのプロンプト例 |
マーケティングの基本戦略も、ユーザーリサーチ同様に1次情報は自分たちで準備する必要があります。しかし、戦略を考える基本フローさえ理解していれば、戦略土台は10分あれば整理できてしまいます。それは大きな変化だと感じます。
マーケティングの仕事で変わること
ここまで、今までも行ってきた業務が生成AIによって効率化されるイメージをご紹介してきました。
ニュースでも取り上げられている通り「コンテンツ見出し作成」「広告文作成」なども効率化される代表的な領域でしょう。
ここからは、マーケティングの仕事で変わることに関する考えを書いていきます。冒頭でお伝えした通り、マーケティングの仕事そのものは簡単には変わりません。しかし、マーケターの仕事への取り組み方や取り組む領域は変わってくると考えています。
筆者の仮説:マーケターはアイデアを形にするまで責任を持つことが求められるのでは?
「戦略仮説やアイデアを形にする」こと、具体的には「プロトタイプ作成」がマーケターの重要な役割になると考えています。今まではデザイナーやエンジニアに依頼をしていた領域を、マーケターが担うイメージです。イメージを整理します。
Before(今までのマーケターの仕事)
アイデア→マーケティング調査→戦略策定→社内確認
After(生成AIを活用したマーケターの仕事)
アイデア→AI(ChatGPT)を使いながら即プロトタイプ→顧客フィードバック→社内確認
生成AIによるマーケターの仕事の変化
業務効率化をした仕事で浮いた時間は、自らが創り出すことに時間を使い、素早く変化をつくることが重要だと考えています。今まで通りの業務領域・役割に留まっていては、マーケターとしての価値が出せなくなるかもしれません。
具体的に創り出すこと
プロトタイプとは、商品やサービスのアイデアを具体化するための試作品であり、主にアイデアを評価し、改善・発展させることに活用します。
今までは、プロトタイプをマーケターが簡単に作るには、スキル・時間・環境の3つの壁があったと考えています。いきなりWEBサイトのモックアップを作成したり、顧客に見せられるレベルでストーリーを整理することに難しさを感じていた人は多かったのではないでしょうか。
しかし、生成AIによって、ランディングページ制作や簡易アプリを作ったり、時にはゲームを作ったりする行為が民主化されました。
今までは、プロトタイプを高速でつくるとなると、最低でも数十万円の予算と1週間の期日がかかっていましたが、今では無料、かつ1時間でつくれるようになっています。このように誰でも戦略仮説やアイデアを形にできるようになったメリットを活かすことが重要です。
すぐに実行できる推奨アクションは下記の通りです。
- 戦略方向性を決めたら、ChatGPTを活用してプレスリリースを書いてみる
- アイデアを思いついたら画像生成AIで即ビジュアルコンセプトをつくる
戦略を考えたら即つくり出したいプロトタイプ
これから必要とされるマーケターは、調査や戦略のレポート作成だけで成り立つことは考えにくいです。戦略の方向性を素早く描き、アイデアをすぐに形にし、市場や顧客からフィードバックを受けながら前に進んでいく人が必要とされるのではないでしょうか。
マーケティングの仕事にデザイン思考を組み合わせる
上記で紹介したような顧客への共感から即プロトタイプをつくって検証を進める考え方は、デザイン思考からヒントを得ています。
生成AIによって、マーケティング思考とデザイン思考が融合していく考え方をもてると、より早く、今までとは違う視点を取り入れながら顧客や市場を動かせるようになると考えています。
デザイン思考の拡大図
マーケティング思考の拡大図
生成AIを活用してマーケティング思考を磨くために
ここまで、マーケティング業務の実践について考えを記載してきました。最後に「生成AI時代に求められるマーケティング思考」について考えをお伝えします。
ポイントは「AIを活用して今まで以上に深く考えること」です。
例えば、下記のようなプロンプトを活用して、既存の分析を掘り下げていきます。
◆クリティカルシンキングで「〇〇業界の問題は何か?」を考え直すためのサポートをお願いします。そもそも業界の根底課題が何かをゼロベースで考え直したいです。新しい問題提起をお願いできますか?
プロンプト例 |
◆上記の課題に対して、さらに深く理解するために、どのような問いをもって向き合うと良いでしょうか?答えではなく問いの視点を複数出すためのサポートをお願いします。
プロンプト例 |
ChatGPTに正解を教えてもらうのではなく、問いを深めたり、前提を一緒に疑ったりするためのアシスタントになってもらうことで、マーケティングの仕事の質を高めることに繋げられるはずです。
まとめと未来予測
ここまで、生成AIによりマーケティングの仕事がどのように変わるのかについて考えを書いてきました。
まず、生成AIを活用したマーケティング業務を発展させるための推奨アクションをまとめます。
①調査
- インタビュー準備・インタビュー結果を深く掘り下げるアシスタント
- ペルソナ・カスタマージャーニーマップ作成と深く掘り下げるアシスタント
②戦略
- マーケティング基本戦略(PEST、5Forces、STP、4Pなど基本フレームワーク活用)作成のアシスタント
- 戦略仮説やアイデアのプロトタイプ作成(プレスリリースやコンセプトビジュアル)
③表現作成
- コンテンツの見出し作成
- キャッチコピー案出し
最後に生成AIが社会に普及した先の未来予測で締めていきたいと思います。
5年以内にマーケター、エンジニア、デザイナーなどの職種の境界は曖昧になり、職種関係なく「表現者」が求められる世の中になるのではないかと考えています。
生成AIの進化が続くと、「誰でも、頭に描いたものは即形にできる」世の中になるのではないでしょうか。
そんな未来に必要とされるのは、専門性に閉じこもらず、領域を越境し、意味ある表現を生み出せる人だと予測しています。
マーケターも、マーケティングの枠にとらわれない仕事ができるか?
この問いと向き合い、自分自身もマーケティングの可能性を広げていきたいと考えています。
Profile
黒澤 友貴(くろさわ・ともき)
ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室CMO。
1988年生まれ。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに10,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを主宰。2020年2月に書籍『マーケティング思考力トレーニング』(フォレスト出版)を上梓。
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Twitter:https://twitter.com/KurosawaTomoki