世界の主要メディアから重要な記事を厳選し、日本語に翻訳して提供するWebメディア『クーリエ・ジャポン』(講談社)。
コロナ、ロシアによるウクライナ侵攻、トランプ大統領の関税政策、パレスチナ自治区ガザにおけるイスラエルとハマスの戦闘…など、世界情勢に目を向ける機会が増えるほど、「世界で何が起こっているのか」「世界でどう報じられているのか」に対する関心が高まり、クーリエ・ジャポンの会員数も増えています。
今回はクーリエ・ジャポン編集長の南浩昭さんをインタビュー。無料会員数が30万人を超えて意気上がる編集部の裏側と会員数増加施策について話を伺いました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)
目次
複雑な世界を単純化せず、多様な視点を理解する
――まず、南さんのご経歴から教えてください。新卒で講談社に入社されたのですか。
そうです。講談社には2003年に入社し、最初の配属先は『FRIDAY』でした。当時はまだ『クーリエ・ジャポン』が創刊されておらず、FRIDAYで事件、災害、スポーツなど、さまざまな分野を担当しました。

私がFRIDAYの事件班に所属していたときのデスクが、クーリエ・ジャポンの創刊編集長である古賀義章さんでした。講談社では新卒入社から3~4年で異動することが多く、私も3年目を迎えた2006年6月に、創刊から半年ほど経ったクーリエ・ジャポン編集部へ異動しました。そこから19年くらいずっとクーリエ・ジャポンにいます。
――異動もなく、19年とはすごいですね。
ただ、その間にクーリエ・ジャポンもさまざまな変化を経験しています。創刊当初は隔週刊の雑誌としてスタートし、約2年後に月刊誌へと移行しました。創刊からおよそ10年後にはWebメディアへと転換しています。
私は一貫してクーリエ・ジャポンに所属していますが、紙媒体とWebメディアでは、編集に対する考え方や仕事内容が異なります。また、2017年には官民交流の一環として1年間クーリエ・ジャポンを離れ、内閣府に出向しました。
その後、復帰を経て、2021年に編集長に就任し、現在に至ります。
――ありがとうございます。クーリエ・ジャポンの媒体概要や編集方針を教えてください。
クーリエ・ジャポンは、海外の新聞や雑誌などから注目すべき記事を厳選し、日本語に翻訳して紹介するメディアです。創刊のきっかけとなったのは、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件(以下、9.11)でした。
9.11が起きたとき、日本でも「なぜこんなことが起きたのか」「真相はどうなのか」と感じた人は多かったと思います。ちょうどその頃、創刊編集長の古賀がフランスに研修で滞在しており、現地でさまざまなメディアに目を通す中で、フランスの週刊誌『クーリエ・アンテルナショナル(Courrier International)』に出合いました。当時の日本の報道は、概してアメリカ寄りで「アルカイダは悪の組織だ」「アメリカの反撃はやむを得ない」という論調が主流でした。
ところが、世界の報道を見てみると、ヨーロッパでは「落ち着いて、冷静になろう」という論調が多く見られました。一方、アラブ諸国の報道では「アメリカがこれまで行ってきたことのほうが、9.11よりもひどいではないか」といった批判的な声や、中には「それ見たことか」という論調までありました。
このように、世界にはさまざまな視点があり、立場によって異なる主張や見方が存在します。そこで、「多様な視点を日本にも伝えるメディアが必要だ」と考え、クーリエ・アンテルナショナルをモデルに、クーリエ・ジャポンが立ち上がったわけです。
ひとつの立場からのみ物事を見ると、世界は単純に見えますが、さまざまな角度から見つめることで、その複雑さや多層性が見えてきます。複雑さを安易に単純化せず、できる限り理解しようと努める――それがクーリエ・ジャポンが創刊以来大切にしてきたポリシーのひとつです。
――読者ターゲットはいかがですか。
読者ターゲットは広く言うと、「日本の中から世界に目を向けている人」です。そのため、高校生から60代以上まで、幅広い層が対象になります。ただし、主な読者層は30〜40代のビジネスパーソンです。サブスクリプションでお金を払ってでも、信頼できる情報をきちんと得たいと考えるのは、そのあたりの世代だと思います。
多様な視点を届けるにあたって、編集部として重視しているのは次の3点です。
- 世界の潮流やトレンドをつかむ
- 世界が日本をどう見ているかを把握する
- 世界のどこかで起きている、未来を予兆するような事象を見つける

会員数30万人突破の背景
――編集部は何人体制で、毎日どのように動いているのでしょうか。
編集部は現在、15人体制です。日本在住のメンバーだけでなく、ヨーロッパやアメリカに拠点を置くスタッフもいます。各自が自分の担当メディアを日々チェックし、「少し時間が経っても読める、“賞味期限”の長そうな記事」を見つけて提案するプラン会議を週に1回行っています。
それとは別に、各担当が毎日午前中に「これは掲載すべきではないか」と思う記事を要約して、Slack上で共有・提案する仕組みもあります。つまり、編集部では週次のプラン会議と日次のオンライン提案という2つのルートで記事選定を行っているということです。
――1日に何本くらい配信しているのですか。また、契約媒体は世界にどのくらいありますか。
1日あたりの配信本数はおよそ6本です。年間の契約をしている媒体は10〜15ほどありますが、契約媒体以外からも記事を見つけて掲載することがあります。その場合は、該当メディアに直接連絡を取り、「この記事を使用させてほしい」と交渉します。こうした版権交渉を専門に担当するスタッフもいます。
また、クーリエ・ジャポンはクーリエ・アンテルナショナルの日本版であるため、同誌にもライセンス料を支払っています。
――紙媒体からWebメディア専門に変わるというのは、一般的にはピンチを意味するのではないかと思います。そのタイミングはいかがでしたか。
それほど強い危機感を抱いたわけではありませんが、情報の発信方法が大きく変わるだろうとは感じました。最初の頃は「紙で実現していたクオリティをそのままWebに出せば支持されるだろう」と思っていたのですが、紙媒体のように月に1回、読者が書店でクーリエ・ジャポンを手に取るわけではありません。そのため、「今月の特集は〇〇です」といった形でパッケージとして打ち出すことが難しくなり、私たちがどんなテーマにフォーカスしているのかを伝えにくくなりました。
もっとも、Webへの移行当初は、オンラインでも特集形式の記事をまとめて掲載していました。ところが、想定していた読まれ方があまりされず、特集以外の単独の記事のほうがPV数を伸ばしていることがわかり、紙媒体時代の「特集主義」をWebでそのまま展開するのは難しいと感じました。
――無料会員数が30万人を突破したとのこと。事件や芸能、スポーツなどを扱うメディアではなく、クーリエ・ジャポンのようなグローバル視点の教養メディアで30万人という数字はすごいですね。どのような工夫をしてきたのでしょうか。
ありがとうございます。会員数が伸びている理由のひとつは、海外の情報を日常的にチェックしておいたほうがよいと考える人が増えているからだと思います。その背景には、ここ数年で起きた大きな社会の変化があります。例えばコロナ禍。感染症の拡大によって世界全体が一時停止したような状況の中で、「他の国はどんな状態なのか」「どのような対策を取っているのか」などに関心を持つ人が増え、会員数が増加しました。
ほかにも、ロシアによるウクライナ侵攻の際に会員数が増えました。また、トランプ氏が再びアメリカ大統領に返り咲き、関税問題が注目されたときや、イスラエルとハマスの間でパレスチナ自治区ガザをめぐる激しい戦闘が起きたときにも、世界の複雑な情勢を無視してはいけないと感じる人が増えたのだと思います。
さらに、読者アンケートを見ると、ありがたいことに、池上彰さん、佐藤優さん、佐々木俊尚さんら著名な方々が、著書やVoicyなどのメディアでクーリエ・ジャポンを紹介・推薦してくださっており、その影響も実感しています。

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