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インタビュー

「社会課題の解決」が、企業の競争力になる——LIFULL 執行役員CCO川嵜鋼平が語る、事業とクリエイティブの交差点

最終更新日:2025.05.27

The Marketing Native #73

LIFULL

執行役員CCO

川嵜 鋼平

「住まい探しの困難解消」など、さまざまな社会課題の解決を事業の中心に据えて、成長を続けるLIFULL。

川嵜鋼平さんは、LIFULLで執行役員CCO(Chief Creative Officer)を務めるかたわら、主要事業であるLIFULL HOME'S事業本部のCMOも兼任しています。

ブランディングやデザイン、コミュニケーションなどのクリエイティブに加え、事業、営業、マーケティングなども管掌する川嵜さん。

どうすれば社会課題の解決とビジネスの成長を両立させることができるのでしょうか。今回はLIFULL執行役員の川嵜鋼平さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:海保 竜平)

目次

社会課題の解決とビジネスの両立

――川嵜さんはLIFULLでCCO、LIFULL HOME'S事業本部でCMOを担当していて、管掌範囲が広いですね。いつもどんな仕事をしているのですか。

LIFULLという企業グループ全体の執行役員CCOとしてブランディングやデザイン、コミュニケーションを管掌しています。また、LIFULL HOME'Sの事業本部副本部長CMOも兼務しており、CMOとしては事業経営をはじめ、営業・マーケティングの管掌もしています。

――LIFULLはいろんな事業を手掛けているという印象があります。「LIFULLって、ひと言で言うと何の会社ですか?」と聞かれたら、どう答えますか。

「事業を通じて社会課題解決に取り組む企業グループです」と答えます。

LIFULLでは「個人が抱える課題が集積されて世の中の課題になる」と捉え、これを社会課題と定義しています。LIFULL(旧ネクスト)は創業者の井上高志現会長が、不動産情報の非対称性という社会課題の解決を目的に、1997年に設立しました。つまり、もともと社会課題の解決と公明正大な利益追求が両立するように設計されていて、企業文化になっています。

――「社会課題の解決」を掲げる企業は多くても、ビジネスに結びつきにくいという悩みを抱えるところも少なくないと聞きます。「社会課題の解決」を会社のテーマに掲げることにメリット・デメリットはありますか。

我々はメリットしかないと考えています。確かにサステナビリティとビジネスの両立は、議論になりやすいポイントです。以前、サステナビリティに関する国際会議に登壇して他社の担当役員の方とディスカッションをした際も、その方が社会課題の解決と事業を両立させる難しさを話されていました。

一方、LIFULLは社会課題の解決を中心に据えて事業をしています。社会課題の解決こそが個性であり、我々が選ばれる理由になっています。世の中に貢献することが、事業成長に直結するわけですから、社会課題の解決を企業のテーマに掲げることは我々にとって自然なことであり、メリットです。事業としてしっかりと取り組んで、公明正大に利益を生み出す営みが社会課題解決へのさらなる投資につながり、サステナブルな事業運営に結びついています。

――デメリットは何でしょうか。社会課題解決に関する世の中の理解度がまだ不十分なことですか。

デメリットはほとんどないと思います。事業をしたりイベントに登壇したりする限り、かなり理解が広がってきたと感じます。

クリエイティブとは何か。事業経営とどちらが難しいか

――わかりました。次も基本的なことで恐縮ですが、そもそも「クリエイティブ」とは何ですか。川嵜さんはCCOで、クリエイティブに関する複数の賞を受賞しています。一方、私の記事制作も時々“クリエイティブ”と呼ばれることがあります。LIFULLにおけるクリエイティブとは何か、川嵜さんはクリエイティブをどのように定義しているのか、教えてください。

皆さん、いろんなことを「クリエイティブ」と呼びますからね(笑)

一般的な企業の場合、制作に関わる仕事全般がクリエイティブだと思います。LIFULLのクリエイティブの中でもデザイナーの職種では、「発想力・表現力・実行力を有していて、事業や社会、未来をデザインする仕事」と定義しています。コーポレート・アイデンティティ(CI)などのブランドやサービス、コミュニケーションを作るような「表現」ももちろんですが、その手前で、事業を理解してコンセプトを作る「発想」も該当しますし、「実行」のところでやりきる力も必要です。

一方、私個人としては、社会人になってからずっとクリエイティブに携わってきて、事業経営もマーケティングも営業も、結局クリエイティブの仕事と大きな違いはないと感じています。課題を徹底的に分析して、方向性を定め、小さな仮説検証を繰り返しながら、大きく実行し、最後までやりきる。事業やプロジェクトと並走しながら、成果創出までしっかりとつなげる――。これらはクリエイティブの仕事も、経営やマーケティング、営業の仕事も基本的には同じです。だから私は基本的に、それら全てを「クリエイティブ」と定義しています。

――大胆な定義ですね。日々数字を追うこととクリエイティブでは対立することもあると聞きますが。

そうですね。異なる点を1つ挙げると、理詰めで案を作った後、少しずらしたり、あえて間違えたりする表現の美意識の部分は、もしかしたらデザインやアート特有の世界かもしれません。

――個人の美意識を基準にわざとずらしたり、間違えたり…共通認識による正解がない分、有名デザイナーの作品が炎上することもあり、クリエイティブのほうが難度が高そうです。

難度は変わらないと思います。営業数字を達成するのも、マーケティング施策で成果を上げるのも同様に難しいと感じます。

クリエイティブが炎上した過去のケースを見ると、プロセスの問題が要因の1つとして挙げられると思います。方向性を意思決定する前に、小さな検証を重ねておくのが大切です。A案・B案・C案を検証した上で、A案のほうが定量的に評価が高いけど、今回はB案で行こうと判断する考え方はありですが、検証もせずに大御所や上長が「B案しかない」と決めてしまう時代ではもはやないと思います。

私もデザインやコミュニケーションに限らず、プロダクトの開発や改善、プロモーション、営業、事業開発などほぼ全てにおいて検証を繰り返してから、方向性を決めています。その点でも難しさのレベルは同じではないでしょうか。

――成果についてはどうですか。営業やマーケティングに比べて、クリエイティブは成果を定量的に計測しづらいと思うのですが。

クリエイティブの成果には両面あると考えています。社会課題解決や事業としての成果につながらない表現を私はあまり良しとしないので、まずその目的を達成できる表現になっていること。もう1つは、表現として業界やデザイン市場の中で、評価が得られるアウトプットになっていることです。どちらか一方ではなく、両面で成果を上げることが重要で、いずれも計測しづらいとは思いません。

――川嵜さんはどのようにクリエイティブを学んだのですか。

私が社会人になったのは2004年で、デザインという言葉の定義が変わっていくタイミングでした。その手前くらいまでは、印刷物のデザイナー、グラフィックデザイナーが花形でしたが、2004年頃にはインターネットが急速に浸透してWebデザイナーやインタラクションデザイナーが仕事を広げ、プログラミングベースでオンスクリーンのデザイナーが必要になっていく転換期だったと思います。

私は最初、グラフィックのデザインから入り、そこからプログラミングベースのオンスクリーンのデザインを学んでいきました。その点では“越境していく”という感覚、つまり時代が変わり続けることに対して、常に自分の領域を広げていくことを実践し、身をもって経験してきた世代だと思います。

それ以降はアートディレクターとして、インタラクティブキャンペーンなどデジタル中心から、テレビCMやイベント、交通広告までをインテグレートしたキャンペーンを経験させていただいたり、ブランディングに領域を広げたりという形で自分が手掛ける領域を拡大し、クリエイティブディレクションを学びました。

マーケティング部門に浸透させたP/L目標の意識改革

――わかりました。次にLIFULL HOME'S事業本部のCMOとしての話を伺います。LIFULLはコロナ禍で一時期業績が低迷したものの、LIFULL HOME'S関連事業等を中心にリソースを集中した結果、売り上げが回復したとのこと。CMOとしてどのようなマーケティング施策を行ったのでしょうか。

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・CCOとCMO。ブランディングか、目の前の数字か
・今振り返って、本当に良かったと思うこと

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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