2019.01.17

 

乗車料金タダ!「どん兵衛タクシー」の広告効果を検証してみました

こんにちは!Marketing Native編集部インターン生の當摩(たいま)です。

みなさんはタクシーをよく利用しますか?私はまだ大学生なので、なかなか乗車する機会はなく、「大人の乗り物」というイメージが強いのですが、いつかはお金を気にせずにタクシーに乗って、都内を移動することに憧れを抱いていました。

そんな私の思いを別の形で実現してくれたのが、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)のタクシー配車アプリ「MOV(モブ)」の「0円タクシー」です。日清食品グループが広告スポンサーとなった「どん兵衛タクシー」と言ったほうが認知度が高いかもしれません。

この「どん兵衛タクシー」、スポンサーの広告宣伝費によって走行しているので、客は無料でタクシーに乗れるというのですが、実際のところ本当に乗車料金の元が取れるくらいの広告効果があったのでしょうか?

今回はどん兵衛タクシーの乗車体験を踏まえつつ、広告効果を検証してみました!
(どん兵衛タクシーの運行は2018年12月31日で終了しています)


画像素材:tiquitaca / PIXTA

    

目次

0円タクシー乗車体験

まずは乗車レポートからお伝えします。どん兵衛タクシーに乗りたかったけど乗れなかった人、自社でもフリービジネスの導入を検討しているという人の参考になればと思います。

呼んでみた

編集部が入っている株式会社CINC(シンク)の所在地は東京・六本木。ランチに出ていたビジネスパーソンが続々とオフィスに戻り始める13時に、六本木でどん兵衛タクシーを探しました。

さすがは六本木。目の前の道路は各社のタクシーが行き交い、アプリ上も空車のタクシーでごった返しています。しかし、近辺にどん兵衛タクシーがいる気配はありません。

アプリの画面をズームアウトし、近隣の地区まで範囲を広げ探してみます。

見つけました!アプリ上でも圧倒的に目を引く、赤色のどん兵衛の文字(笑)。お揚げでつくられた耳がアプリ上でも愛らしく感じます。

早速、配車しようとタクシー会社選択画面に移ります。

 

ところが、どん兵衛タクシーを選択できません。

なぜだろう…と考えていたら、わかりました。MOVの仕組みは乗車位置から一定の範囲内にいないと配車できない仕組みなんです。つまり自分が今いる場所の近くにどん兵衛タクシーが走っていないと乗車できないということです。

気持ちを切り替えて、近くにどん兵衛タクシーが現れるのをアプリ画面とにらめっこしながら辛抱強く待ち続けます。10分…20分…30分…気持ちばかりは焦るものの、なかなか姿を現さないどん兵衛タクシー。都内でわずか50台しか走っていないということで、0円の希少性を身をもって感じます。

1時間以上待った後、六本木では乗車できないと考え、場所の移動を決意。アプリ上で出現率の高かった、白金高輪までトボトボと歩いていたところ、ようやくアプリ上にどん兵衛タクシーが現れました。

現在地から直線距離で50m。肉眼ではまだとらえられていないものの、アプリ上では確実に存在しています。このチャンスを逃すものかと、必死の思いで画面をタップ。何とか配車までこぎつけました。

実際に乗ってみた

配車完了から、およそ5分。ついにどん兵衛タクシーが到着しました。

遠くから見ても目立ち、ほかのタクシーとは明らかに異なる鮮やかな赤で塗装された車体に、お揚げの耳が特徴的なタクシーランプ。アプリ画面のロゴ同様に可愛らしさを感じつつ、想像以上に「どん兵衛」を身にまとったタクシーを見て、寒さに凍えた私の体は少し温まった心地がしました。

乗車すると、まず目に入るのはどん兵衛のロゴ。徹底したどん兵衛アピールに心躍ります。

「乃木坂まで」。会社の最寄り駅を指定しました。

目の前にはタブレットの画面が設置され、星野源さん、吉岡里帆さんが出演するおなじみ、どん兵衛のCMとMOVのプロモーション動画が流れます。

やっと乗れたという安心感と吉岡里帆さんの美しさから落ち着きかけていましたが、ここからが本番。目的は「0円でタクシーに乗ること」です。

ところが、タクシーが完全に停車したのを確認してメーターを見ると、2420円!しっかりと金額が記録されているではないですか。

「え、0円ではなかったの?お金持ってないよ」「もしかして一旦払って、後から返金されるとか」…とドキッとしたのもつかの間、運転手さんは何事もないように、「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」と、どん兵衛特別仕様の名刺を手渡してくれました。

距離は2.7km、時間にして17分。「0円でタクシーに乗りたい」という不純な動機で乗車したどん兵衛タクシーでしたが、丁寧な接客をしてくれた運転手さんのおかげで、タクシーにもどん兵衛にもとても愛着が湧きました。その晩、どん兵衛を食べたことは言うまでもありません。

0円タクシーの仕組み

ここであらためて0円タクシーのビジネスモデルをご紹介します。

そもそも「MOV」とは

MOVは「乗りたいときに、確かに、つかまる。」をコンセプトとするタクシー配車アプリで、株式会社ディー・エヌ・エーが提供しています。

アプリ上で手配を行うため、ほかのタクシーアプリと同様に、配車したタクシーの現在地や乗車地点への到着時刻がわかるという便利な特徴があり、MOV利用者の総合満足度は89%、継続利用意向は94%と高い評価を得ています。また、ネット決済にも100%対応しています。

0円タクシーが成り立つ理由

「0円タクシー」は、DeNAのプロジェクト「PROJECT MOV」の第1段として実施された企画で、スポンサーとMOVの広告宣伝費によって乗客が支払う料金を無料にするという画期的なフリービジネスモデルです。

車内という、いわば密室の中で乗客に直接訴求できるため、スポンサーは車体のラッピングや座席前のデジタルサイネージを通して自社商品やサービスの宣伝を行い、認知獲得や購買につなげられるというメリットがあります。

一方、タクシー事業者としては、無料という形で乗客が利用する際のハードルを下げることで、普段タクシーにあまり乗らない人たちの利用促進につなげることが期待できます。さらに、契約スポンサーとMOVの両社から広告宣伝費として通常通りの乗車料金分を徴収できるため、新たな収益モデルの柱としての役割も期待できます。

どん兵衛タクシーの広告効果は?

どん兵衛の存在が強く印象づけられた乗車体験でしたが、実際にはどれくらいの広告効果があったのでしょうか。Marketing Native編集部のアナリストに聞きました。

どん兵衛タクシーのツイート数の推移

Twitter上での反響を調査しました。下図は2018年11月から2019年1月までの「どん兵衛タクシー」「0円タクシー」のTwitter投稿数です。

▲Twitter上での反響

サービスリリースの12月5日に「どん兵衛タクシー」と「0円タクシー」の2つのワードを含んだTwitterの投稿数が多くなっています。

特にリリース当日は「0円タクシー」が「どん兵衛タクシー」を上回り、1000ツイートを超える状況になりました。例えば、「JapanTaxi」が2018年12月11日にTwitterで投稿したLINE Payに関するキャンペーンは、リツイート数が52件となっており、無料でタクシーに乗れるというインパクトがユーザーの注目を集めたことがわかります。

 

▲「#JapanTaxi」「#全国タクシー」で1日最高4件

しかし、その後2つのキーワードの投稿数は急落し、12月25日のMOV公式アカウントによる0円タクシーを告知する投稿では「どん兵衛タクシー」を含む投稿数が急に伸び、「0円タクシー」を含む投稿数を逆転しました。

サービスリリースから20日が経ち、実際に都内を走行するどん兵衛タクシーを目にするようになったために、投稿数が増加した可能性があります。無料というサービス内容よりも、どん兵衛タクシーそのものの珍しさと、ビジュアルに関心が寄せられたと推測できます。

ユーザーのTwitter投稿内容に関する分析

投稿はリツイートが大半を占める

「どん兵衛タクシー」を含むツイートは70%以上、「0円タクシー」を含むツイートは54%以上をリツイートが占めていました。

リツイートされたのはMOVの公式アカウントから投稿されたツイートが大半であり、サービスリリース当時の投稿は6774件リツイートされました。

当初からどん兵衛タクシーはテレビCMやWeb上での訴求は行わず、SNSなどでの話題性で利用者の獲得を想定していました。結果的にはTwitter上でサービスリリース当初から話題を呼び、12月25日のツイートを含めると合計リツイート数は6912件(1月17日時点)、いいね数は1522件(1月17日時点)と高いエンゲージメント数を記録しました。

2018年10月15日に投稿されたアプリの利用エリア拡大に関する告知ツイートと比較してもその差は明らかです。どん兵衛タクシーによる日清食品とMOVの広告戦略は認知度の向上という点では、一定の成功を収めたと言えます。

ポジティブなツイートが多い

Twitter上での反応は、どん兵衛やAmazonギフトカードのプレゼントを訴求したMOV公式アカウントの投稿をリツイートしたものが中心で、ポジティブな内容が大半を占めていました。「もらえる」や「試せる」だけでなく、「どん兵衛タクシー 可愛い」や「嬉しい」といったキーワードも含まれ、好意的な印象を持たれていたことがわかります。

▲ツイート内容のポジネガ分析

▲ツイート内容のポジネガ分析

上記の表を参考にすると、「無料」といったタクシーに関する内容よりも、「どん兵衛 もらえる(貰える)」や「どん兵衛 天ぷらそば」など「どん兵衛」関連のツイートが多いため、MOVよりもどん兵衛の広告宣伝として効果があったようです。

一方、ネガティブな反応を見ると、実際のサービスに対する不満も一部見られるものの、「乗れない」などの「利用したいけれど乗車できない」という意図を含んだと考えられるキーワードも少なくありません。つまり、「乗りたくない」のではなく「乗れない」のであり、エンドユーザーとしては利用したい気持ちはあるのにどん兵衛タクシーの希少性ゆえに、ネガティブなキーワードが出てしまったと推測できます。

そういう意味では、「どん兵衛」という国民的な人気商品のブランド力を利用するとともに、エンドユーザーの「無料でタクシーに乗れる」という興味・関心を刺激することで、「MOVのタクシーに乗りたい」というニーズ(MOVの事業および収益に直接関連のあるニーズ)を作り出しており、マーケティング戦略として成果を上げたと言えるでしょう。

MOVのマーケティングの成果

▲MOVアプリへの影響

データ参照元:App Annie Intelligence

スマートフォンアプリ市場のデータや動向がわかるApp Annieのアプリランキングにおいて、日本国内のアプリランキングで1000位以下だったMOV(旧アプリ名は「タクベル」)のダウンロード数は0円タクシーサービスリリース直後の12月5日に全国の72位まで上昇しました(iPhoneデバイス)。

Google Playストアでは口コミ数 569件のうち80件(15%)が12月5日以降に投稿された口コミです。そのことから、iPhone経由のApp Storeでも同様の15%を新規に獲得したと想定すると、App Storeの総口コミ件数9640件(2019年1月9日時点)のうち1446件(9640×0.15)と、Google Playストア80件の合計1526人(1446+80)はキャンペーン中にアプリをダウンロードしていると考えられます。

▲月間レビューと工数

データ参照元:App Annie Intelligence

▲日別レビューと工数

データ参照元:App Annie Intelligence

App Annie上で一部口コミの投稿推移を確認すると12月、特に6日に投稿数が急上昇していることがわかります。どん兵衛タクシーの利用を目的にMOVアプリのダウンロード数が増えたことは明らかです。

キャンペーン開始以降、アプリランキングも日別口コミ投稿数も減少しましたが、認知度向上だけでなく、アプリダウンロードとサービスの利用というコンバージョンを獲得できました。

どん兵衛タクシーの費用対効果

費用対効果を検証するため、設定を以下のようにしました。

配送台数(実際) 50台 ※1
タクシー稼働時間/日 15時間 ※1
平均利用金額/人 2395円 ※2
利用頻度/人 1回/月 ※3

※1:「0円タクシー」の運行台数と時間
※2:東京都のタクシー利用者における、ひと月の平均利用金額2395円(株式会社マクロミル調べ)から設定
※3:想定乗車回数(実際には複数回利用する人もいるが、ここでは1回に設定)

上記設定の場合、初乗りの1052mは410円、残りの1985円は80円/237mで計算すると、2395円で乗れる1回の想定距離は6.9㎞です。

東京都心の一般道路でタクシーが走行する平均速度を時速16kmとした場合(東京都心の平均旅行速度から推定)、1回の乗車約7㎞の走行のみで約0.43時間(25分)稼働すると考えられます。乗降車・お客さまのピックアップの時間を1回約10分と想定すると、1回の乗車にかかる時間は約35分です(※MOVアプリ経由なので支払い時間は想定していません)。

【1日あたりの想定稼働時間900分(15時間×60)÷1回あたりの乗車時間35分=25.714…】であることから、1日のタクシー乗車回数は25回程度と推測できます(※運転手の休憩時間は考慮しない)。

売り上げはキャンペーン期間のタクシー運賃代だけで、

【1日の乗車回数25回×タクシー稼働台数50台×キャンペーン実施期間の26日間×1回の乗車でのタクシー運賃代2395円】となり、約7783万円と見積もることができます。

一方、運転手の人件費は【東京都のタクシー運転手の平均月収33万4300円(厚生労働省の平成29年賃金構造基本統計調査より)×50人(どん兵衛タクシーの台数が50台であることから想定される最低人数)】 の 約1671万円です。タクシー運賃台と合わせると、約9454万円(約7783万円+約1671万円)となります。タクシーの手配・装飾・社内の広告および動画作成、ガソリン代などの経費は日清食品が負担しているかどうかは不明ですが、仮に含まれるとすると、1億円以上のコストがかかっていると考えられます。

日清食品は2018年3月期の財務データでは年間146億円を広告宣伝費に使っており、0円タクシーのコストと想定される約1億円は日清食品の年間宣伝広告費の1%にも満たないため、話題性を考慮すると費用対効果は十分あったと考えてよいのではないでしょうか。さらに、どん兵衛タクシーのキャンペーンを実施しなくても定番商品の売り上げに影響を与えることはないため、リスクという点でも比較的小さなキャンペーンだったと考えられます。

MOVの側も日清食品のブランド力を活用し、Twitter上だけでも約7000件のリツイートがあったのに加え、アプリダウンロードのCVを推定で1526件以上は獲得できたという点でも成果があったと考えられます。

もし仮にリツイートした7000件のユーザーがMOVアプリをダウンロードし、月1回2395円をMOV経由で利用した場合、【リツイート件数7000件×1ユーザーあたりのタクシー利用額2395円】で1676万円相当の売り上げをどん兵衛キャンペーンから獲得していると考えられます。

どん兵衛タクシーから始まる無料ビジネスへの期待

どん兵衛タクシーはフリービジネスモデルとして大きな話題を呼びました。考察からTwitter上での反響や広告効果はユーザーのMOVとどん兵衛の認知度拡大に十分効果があったと考えられます。

特にMOVはタクシー配車アプリマーケットの70%(株式会社マクロミル調べ)を占有しているJapanTaxiに対抗するためにはユーザーとの接触が重要になります。

しかし、日本ではタクシー配車アプリの普及率は10%程度(株式会社マクロミル調べ)で、ダウンロードしても何も利用していないというユーザーが大半を占めています。つまり、MOVサービスの発展を考えた場合、現状では日本におけるタクシー配車アプリの文化を作ることが先だということです。

今回の施策を皮切りにフリービジネスモデルの認知とタクシーアプリの普及率が拡大し、新たな文化が醸成されるかもしれません。今後もMOVに注目です。

データ出典:
初乗り料金値下げから1年。東京都内のタクシー利用に関する調査 株式会社マクロミル
東京都内のタクシー利用に関する調査 株式会社マクロミル
首都圏における交通渋滞の現状 国土交通省関東地方整備局
平成29年賃金構造基本統計調査 厚生労働省

記事執筆者

當摩征也

當摩征也

Marketing Native編集部インターン生。弁論部でスピーチを行っていた経験から「価値を伝える」仕事がしたいと株式会社CINCにジョイン。 CMOを目指して日々修行中。好きな飲み物はジャスミン茶。Twitter:@seiya_TA05

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