株式会社KabuK Styleと日本航空株式会社および株式会社ジャルパックは、2021年8月~11月に「航空サブスクサービス」の実証実験を実施し、そのレポートを公開した。
「航空サブスクサービス」の実証実験は、デジタル化の進展や働き方改革、SDGsの浸透など社会における価値観の変化により、人々のライフスタイルが多様化していることを踏まえ、ニーズに適応するサービス設計を行うため3社で共同実施したもの。実証実験の結果から、「航空サブスクサービス」を利用した旅は、一部の参加者の声により、従来の旅とカスタマージャーニーが大きく異なる可能性があることが明らかになったという。担当者に詳細と今後の展望を聞いた。
目次
「航空サブスクサービス」実証実験の概要
KabuK Styleは、多様なライフスタイルを実現するためのサービスを提供している。宿泊だけでなく移動需要を拡大させることにより、日本の観光業と地域の活性化にも寄与するべく、さらなるサービスの拡充を計画している。その基礎となるのが今回の航空会社との実証実験だ。
実証実験では、KabuK Styleが運営する旅のサブスクサービス「HafH(ハフ)」(※)の会員を対象に航空サブスクサービスを提供し、これまでの出張や観光旅行のみならず、ワーケーションや多拠点居住、より気軽に旅をできるライフスタイルなど、新たな旅のスタイルを提案した。
※KabuK Styleが提供する、毎月定額で世界中の宿泊施設に滞在することができるサービス。 2021年2月末現在、36の国と地域、583都市の1040拠点 (ホテル、旅館、ゲストハウスなど)を定額で利用することができる。
実施期間:2021年8月~2021年11月の内、約3カ月間
参加者:HafH会員の中から 500名
商品内容:1往復の航空券と指定ホテル1泊分を3カ月間のうち最大3回まで利用する権利
対象区間:羽田発着10路線の往復
【新千歳、釧路、山形、小松、南紀白浜、高知、長崎、宮崎、那覇、宮古】
価格:36,000円(予約の都度 100 HafHコインが別途必要)
特集サイト:https://www.hafh.com/lp/jal/index.html
▲実証実験参加者の分布
今回の実証実験に参加した500名のうち、男性は298名、女性は169名、その他の方(未回答)は33名となっている。 18〜72歳までの幅広い年代が参加し、平均年齢は37歳、中央値は34歳だった。上の図のように20代の参加者が最も多く(33%)、次に30代の参加者が全体の27%を占めており、HafH会員の年代構成よりもやや若い傾向を示したという。
▲実証実験参加者の職業
また、参加者の職業は、会社員が68%と最多で、続いてフリーランス(10%)、経営者/自営業(8%)の順に多い結果になった。
通常の旅のカスタマージャーニーと異なる結果に
1. 旅の目的は複数
上の図のとおり、実証実験の参加目的は「観光」と回答した参加者が82%と最多になった。一方、「ワーケーション」は50%、「ビジネス」と回答した人が16%いるなど、観光だけの旅行ではない参加者が半数以上いることも特徴的だ。また、1人あたりの平均回答数は2.4項目となっており、複数の目的で併用した人がいることも明らかになっている。
2. 行き先が分散
行き先について実証実験と同時期のJALグループの旅客割合を比較すると、実証実験では、JALグループの行き先の中で割合が高い新千歳(37%)と那覇(28%)以外への需要が生じている。実証実験における利用者の行き先は分散していることがわかる。
3.通常の旅とは異なるカスタマージャーニー
実証実験では3回の往復航空券がセットになっていたが、上の図のとおり、41%の参加者が購入時に行き先をまったく決めておらず、3回全部の行き先を決めていた参加者は20%にとどまった。80%の参加者は行き先を完全に決めずに購入の意思決定を行っていたことになり、行き先を決めてから移動手段を購入する従来の旅のスタイルとは異なる。航空サブスクサービスにおいては、「まずは旅行をすることだけを決めてから、行き先は後から考える」という購買行動が確認された。
また下の図のとおり、参加者のうち75%は申し込みの際に予定していなかった地域へ旅行したと回答。購入時に3回すべての行き先を決めていなかった参加者が80%いたこととも整合している。
従来の旅行とはカスタマージャーニーが異なる点について、株式会社KabuK Style のBusiness Alliance Manager 舘野和子さんはこう語る。
『航空サブスクサービスの特性上、事前に旅行予算となる支払い額が明らかになっているため、物理的・心理的なコストが軽減されることにより、移動に対する参加者自身のハードルが下がるのだと考えられます。一部の参加者は「飛行機で国内旅行に最大3回行く」という権利を取得する前後では、一般的な旅行の申し込みとは異なるカスタマージャーニーを辿っていました。
一般的な旅行のカスタマージャーニーは、認知検討の後、計画して「目的地を決定」したうえで購入するとされますが、航空サブスクサービスは、購入時点で「目的地を決定」する必要がありません。そのため、必ずしも「目的地を決定」することが最優先事項ではなく、目的地は結果的に決まります。また、訪問後に2回目の認知検討の行為が発生している事例もありました。
一部の参加者は、まず旅の日程を決定し、「これまでに訪ねた事がない場所へ行きたい」という好奇心のもと、選択肢の中から「未訪問エリア」を選択し現地へ訪問します。現地での滞在プランも事前に決めず、現地情報は地元の方や宿泊施設スタッフから収集するといった、セレンディピティな体験を求めており、目的地も体験も結論として決まるという傾向が見られました。また、旅の終盤では次回以降の旅の検討が始まるなど、サブスクにより「旅が日常」となるような新しいライフスタイルの可能性がうかがえます』
舘野さんに教えてもらったサンプルユーザーのカスタマージャーニーの購買行動モデル詳細は下記の通りだ。
【サンプルユーザー:Aさん(30代、公務員、一人参加)】
・航空サブスクサービス購買後の、カスタマージャーニー購買行動モデル(例)
- 購買(航空サブスクサービスを購入)
- 計画(参加者の都合の良い日程を前提に計画。この時点では目的地を決定していない)
- 認知
- 検討
- 予約(目的地の決定)
~現地~ - 訪問
- 認知
- 体験
~現地~ - 次回の計画(残権利の活用検討)
・体験後コメント
「本サービスではある程度選択肢が絞られているため、従前は候補に挙がっていなかった旅先を選択することとなり、新たな発見があってとてもよかった」
・一般的な旅行商品のカスタマージャーニーの購買行動モデル(例)
- 認知
- 検討
- 計画
- 購買
- 現地訪問/体験
- 追体験
「旅の終盤では次回以降の旅の検討が始まる」と舘野さんの言葉にもあるが、下の図のように調査でも75%が「再度訪れたいと考えている地域がある」と回答している。予定外に訪れただけでなく訪れた人がリピーターとなり、さらなる需要を生み出す可能性があるといえる。
2022年中に実証実験第2弾の実施を計画
今回の実証実験は、多くの知見が得られるとともに、航空サブスクサービスに新たな需要を創出する効果があることを示す結果となった。新たな需要がコロナ禍で痛手を負った日本の観光産業を再起させ、中長期的な視点で地域の活性化にもつながることが期待されている。
KabuK Styleは、JALとともに実証実験の第2弾を計画しており、2022年中にさらに利便性を高める形で行いたいと考えているという。舘野さんは、利益率などのビジネス面を見据えて、次のように語る。
「サブスクサービスはビジネスモデルの性格上、ユーザーによって利益率が異なるのが一般的です。そのため、ユーザーごとに利益率が異なることは許容しつつ、全体として利益率を安定させる必要があります。HafHの月額課金モデルは、同じ時点での予約において、曜日や季節によらず消費コイン数を一定にすることで、価格の比較(土曜日の旅行やお盆の旅行は同じサービスなのに値段が高いと感じること)を不要にしている点がユニークです。
今回の実証実験では、予約1回あたりに100HafHコインを消費させる仕組みにより、予約行為と消費を一部一致させる感覚を作り出しています。消費コイン数については、現在HafH上で宿泊予約する際に施設ごとの消費コイン数が異なるのと同様に、距離の長い路線(原価の高い路線)ほど多くするというアプローチを検討する可能性があります」
国をまたぐ渡航制限の世界的な解除を受けて、KabuK Styleは海外の航空会社との連携も進めていくそう。「旅のサブスク」の今後の展開が楽しみだ。