[最終更新日]

2019/08/14

 

メルカリCMO村田雅行が語る「成果を上げる常識破りの発想法」

「メルカリが最近、興味深い施策を次々と打ってくるな」と感じたことはありませんか?折り込みチラシに90年代アップデート、「三日坊主」応援キャンペーンなど、若い世代が愛用するイメージが強かったサービスだけに、ある種の「違和感」を覚えている人もいるでしょう。

施策立案の背景には、何があるのでしょうか?本当に効果が出ているのでしょうか?

今回は株式会社メルカリ執行役員CMOの村田雅行さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:稲垣 純也)

    

目次

急速な変化と組織拡大の中で就任したCMO

――村田さんがメルカリのCMOに就任したのが2018年8月。すでにフリマアプリとしては圧倒的な存在であり、「メルカリエコシステム」を築きつつある中で、プロダクト、業績ともにさらなる成長と拡大を求められるCMOの職責を担うのは、期待と不安、ともに大きかったのではないでしょうか?

わくわくするような期待感でいっぱいで、不安はほとんど感じませんでした。入社したのは設立5年を迎えて、上場を果たした直後のタイミングであり、そこでマーケティングの次のステージを担う役割を任せていただけるのは、とてもありがたいお話です。

――新卒で楽天に入社された後、オンラインスクールの運営などを手掛けるキラメックス社を設立し、代表取締役を約10年務められたとのこと。その間、マーケティングに関してはどのような形で学ばれたのでしょうか?

楽天を2年で辞めて会社を設立しましたので、教科書からではなく実践で学びました。会社設立当時はお金もありませんでしたから、少ない資金で大きな成果を得るにはどうすればいいか、どう改善すればお客さまに使っていただけるプロダクトができるかを常に考え、工夫しながら身に付けてきた形です。

――外から見ていたメルカリとCMOに就任して中から見たメルカリ。何が違いますか?

フリマアプリ「メルカリ」はリリース当初から愛用しています。「出品したらすぐに売れた」「“本当に購入する人いるの?”という物まで売れた」という秀逸な顧客体験をもたらすサービスの本質は一環していて、自分にとっての不要品が誰かに必要とされる仕組みは素晴らしいと思います。

また、内側から見た会社の印象ですが、入社時にはすでに上場していたものの、現在もベンチャーから急速に組織を拡大している一種の「カオス」のような段階にあり、やりたいこと、やるべきことに満ちあふれた、アグレッシブでエネルギッシュな勢いを強く感じます。

楽天時代も急成長する勢いを肌で感じていましたが、実は当時の楽天が入っていたオフィスが、今メルカリがいる六本木ヒルズ森タワーの18階なんです。

――そうなんですか!それは偶然ですね。

はい、お誘いいただいたときに「10年ぶりに同じフロアで仕事をするなんて、運命的だな」と感じました。今のメルカリでも楽天時代と同様、目まぐるしい変化と急速な組織拡大を目の当たりにしています。確かに成長痛もありますが、1つずつクリアにしながら大きくなっているところです。

画像出典:メルカリ

認知度向上から新規ユーザーの獲得・育成へ

――同じビルの同じフロアにいるとはいえ、当時は上司・先輩からの指導を受けられたのに対し、今度は自分が部下を指導しながら会社を成長させる立場です。その点のプレッシャーはいかがでしょうか?

良い意味でプレッシャーは感じています。サービスをご利用のお客さまの数も非常に多い状況ですから、事業の成長だけでなく、事業の価値を高めていくことが大切です。そのためにCMOとして、サービスの優れた特徴を多くの人にしっかりと伝えていきます。

――メルカリの仕掛けで最近話題になった施策としては、新聞の折り込みチラシと90年代アップデートがあります。これはどういう背景で立案されたのでしょうか?

折り込みチラシは、メルカリの認知度の高さと比較して、実際の出品経験や今後の出品意向が、まだ十分ではないという現実に対する改善策として実施しました。上場までのフェーズではテレビCMなどで認知度は上がりましたが、現在は認知の先にある「メルカリ」の利用を促進する意識の掘り起こしやユーザーの発掘、育成に注力しています。

そもそも「知っているけど、使わない」という人は、ざっくり言うと「よくわからない」ということだと思います。さらに「よくわからない」の中には「何が売られているのか、よくわからない」「いくらで売れるのか、よくわからない」「本当に安全なのか、よくわからない」など複数の要因があるのではないかと推測し、折り込みチラシを配布することで「メルカリ」の中を知っていただきたいと考えたのが施策の背景です。

「扱っている商品を知っていただく」という観点で言うと、折り込みチラシならいろいろな商品を並べることができます。「メルカリを使うと、この商品がこんな値段で買えるんだ」「自分が持っている物もこの価格で売れるかもしれない」という点を折り込みチラシでしっかりと訴求することで、ユーザーの拡大と利用促進を狙いました。

――折り込みチラシを制作する際に意識した点は何ですか?

既存のチラシに近いデザインにすることを心がけました。折り込みチラシなので、多くはお茶の間で見られるわけですが、既存のチラシに近いデザインにすることで、「えっ、何これ!?」「メルカリがなぜチラシ?」という違和感を創り出し、そこから家族間で会話が生まれるようにしたかったんです。その結果、「メルカリって、どうやって出品するの?」「私もやってみようかな」と、実際の行動につながるきっかけを作ることができたのではないかと思います。

オンとオフの相乗効果を可能にする紙媒体の利用価値

――社内で「今どき折り込みチラシ?」「本当に大丈夫?」といった反応はありませんでしたか?

既存のクリエイティブに近い形になるため、社内では「わかりにくくて、クレームが来るのではないか?」と懸念する声は一部ありました。しかし、実際に北海道と愛知県で行ったところ、クレームなど1つもないだけでなく、逆に「チラシが欲しい」「どこで手に入るの?」という反響をいくつも頂きました。

――SNSやWebでかなり話題になりましたね。これはある意味、成功したとお考えですか?

そうですね。折り込みチラシだけでなく、紙媒体などオフライン系のチャネルについては、良い活用方法がまだあると思います。

現代はマスメディアも存在する一方で、TwitterやInstagram、オンラインサロンなど小さなコミュニティが点在しています。それぞれのコミュニティに情報を届けるためには、従来型のマス・コミュニケーションだけでは難しくなっていますので、コミュニティの中にいる人たちが発信したくなるようなネタを提供することが重要です。そういう意味でオンラインとオフラインの掛け合わせを可能にする紙媒体は、コミュニティの中の人が「こんなのを見つけたよ」と発信するトリガーになり得ると思います。

――まさにコミュニティが点在している状態であり、マス・コミュニケーションで全体に届くという時代ではなくなっていますよね。その場合、やはりSNSの活用が1つのポイントということでしょうか?

そうですね。1つのポイントであり、話題量が重要です。

――話題量?

つまり、話題になっているのか、いないのかという点です。これまでは「テレビでよく見る」という点が1つの指標だったと思いますが、今はGoogleトレンドなどで簡単に計測できます。1つの判断基準として、Googleトレンドで指名検索が増えていれば、ソーシャルで話題が拡散していると言えるでしょう。

――その点も含めて、折り込みチラシの効果はいかがでしたか?

明確な数値は出せませんが、配布した北海道と愛知の一部地域と、それ以外の県のデータを比較すると、成果は確実にありました。今回はテストなので小さく行いましたが、スケールさせられるポテンシャルは十分にあります。

――ということは、これからもやっていくということでしょうか?

もちろん可能性はあります。折り込みチラシはとても面白いメディアで、皆さんが長年お金を払って購読している新聞の中に毎日のように入っている貴重な存在です。ですから、届くのが待ち遠しくなるような折り込みチラシを定期的に作成して配布できれば、1つのチャネルとしては成功だと思います。

90年代アップデート(画像出典:メルカリ)

シニア層の生前整理とメルカリの相性の良さ

――もう1つお聞きしたいのは90年代アップデートです。これも驚いたのですが、どんな意図があったのですか?

これは新元号発表に関連した企画です。4月1日に新元号が発表されたときに、我々は新しい形の「号外」を配布しました。それはTシャツです。新元号が発表された瞬間に、「令和」とプリントされたTシャツを作って、渋谷で配布するという施策を行ったんです。これは海外も含めて、本当にたくさんのメディアに取り上げていただきましたし、ソーシャルでもかなり拡散されました。

90年代アップデートもその流れの一環にありまして、インターネット企業として、ネットが急成長した90年代、平成へのリスペクトを込めて実行しました。もちろん、話題性だけを狙ったわけではなく、平成を振り返りながら懐かしいアイテムを紹介することで、読み物としての面白さとともに、「『メルカリ』の商品ページに行けば、ほかでは買えない懐かしのアイテムが購入できる」という点をしっかりと訴求しました。

――折り込みチラシと90年代アップデートを見る限り、年齢層が比較的高めの世代をターゲットにしている印象を受けます。「アクティブシニアの掘り起こし」という記事も見ましたが、村田さんの目は今、シニア層に向いていると考えてよろしいでしょうか?

シニア層だけではありませんが、強化していきたいのは確かです。初期に利用していただいたお客さまは若い世代や女性が中心でしたが、これからは全年代にしっかりと使っていただきたいと考えています。そのためには単純な中古のフリマではなく、買い物をするときにしっかりと想起されたり、なくては困るライフインフラのようなサービスへと成長させたりしていきたいですね。

――アクティブシニア層の開拓という点で手応えはいかがですか?

手応えは非常に良いですね。60代以上の方とコミュニケーションを取るために、その世代を対象にしたメルカリサロンというイベントを昨年12月に東京、今年3月に大阪と、計2回実施いたしました。改善要望を伺ったところ、「文字が小さいから大きくしてほしい」といったいかにもシニア層から出そうな内容ではなく、「対応可能なクレジットカードの種類を増やしてほしい」など、若い世代と変わらない意見が上がってきました。

ですから、我々もシニア層に対する見方が変わりまして、「年齢に関係なく、使いたいというご希望をお持ちの方は多いし、使い方も若い世代と変わらない」と考えるようになりました。ただし、最初に「『メルカリ』の始め方がよくわからない」というハードルがあること自体は確かなので、そこはプロダクト側もマーケティングとしてもしっかりとお伝えして、越えられるように取り組む必要はあります。

――「終活」におけるメルカリの活用も注目されています。

終活がポジティブに捉えられるようになり、生前整理を対象としたサービスもいろいろと登場しています。メルカリのデータを基に「みんなのかくれ資産調査委員会」が行った日本の一般家庭に眠る不要品に関する調査によると、1世帯あたりの「かくれ資産」は約70万円に上ります。しかも年齢に比例して、高単価で良い物をお持ちだという傾向もわかりました。

生前整理とメルカリの相性はとても良いので、ぜひご利用いただきたいですし、シニアの方がお持ちの物が若い世代に循環して再利用されていく「エコシステム」は素晴らしいと思います。例えば、状態が良く、捨てるのがもったいない逸品として着物がよく出品されていて、若い方が購入しています。そういう流れが形になってきていますので、手応えはありますし、より強化していきます。

イラスト:Marketing Native編集部

CMOに求められる多面的な視点の重要性

――シニア層がお持ちの物が一気にマーケットに出てきたら、すごいことになりそうですね。次にCMOとしてのこれからの在り方についてお聞きします。まず、さまざまな施策を立案するために、村田さんが心がけていることは何でしょうか?

多面的に見ることです。

――多面的に見る?

例えば、シンプルな例を挙げると、ここにペットボトルがありますが、これをただ水の入った容器ではなく、「横に寝かせてスマホを立て掛けたら、画面を見やすくするための台になる」と考えるような発想の転換です。折り込みチラシにしても、ただの紙の広告ではなく、SNSへの着火剤と考えれば、違った活用方法が出てきます。

ほかにも、正月の新聞に「メルカリは三日坊主を応援します。」という「#はじメル」キャンペーンの全面広告を出しました。これも普通ならその日だけで終わりですが、我々は3つのクリエイティブを作って地方で分け、合体させると大きくメルカリの「M」が登場するという仕掛けを行いました。もちろん、SNSで「合わせるとMになる!」と話題になることを狙ったもので、結果的にかなりの反響がありました。そのように、影響力の大きな従来型のメディアやチャネルを多面的に捉えて、新たな使い方がないかということをよく考えています。

――面白いですね。

これは無理かもしれませんが、月9のドラマのCM枠だけを全部買い切ったら、それだけでもう1つの月9ドラマができるかもとか。

――CMをつなげるんですか?

そうです。CMの枠だけでショートドラマっぽいプロモーションができそうだし、話題になりそうですよね。このように、従来の発想の枠を超えるためには、多面的に考えることが大切です。

――多面的に見るために、日頃どのようなことを心がけていますか?

WebメディアやSNSからの情報収集はもちろん、人と会うことも大事ですし、テレビ、新聞、書籍、映画などさまざまなチャネルからインプットをしています。

そもそもアウトプットは、インプットの組み合わせでしかないと私は考えています。全く何もないところからゼロ-イチで考えられることはそんなにないと思っていますので、情報を組み合わせて価値を創出するためにも、積極的なインプットを心がけています。

――では、マーケティングチームのスタッフに対する指導で意識していることはございますか?

「私が責任を取らされてクビになるくらいのアイデアを出してくれ」と言っています(笑)。怒られそうな企画でいい、と。なぜかというと、施策を考えるとき、みんな「置きにくる」というか、無難なアイデアを出しがちですよね。欲しいのは「もしかすると上長がクビになるのではないか?」というレベル感の本当に尖ったアイデアです。

――とはいえ、そこまで発想を広げるのはなかなか難しいですよね。

それくらい言わないと、思考の幅が広がらないんです。リミッターを外して「常識の枠から外れた企画ができないか?」と知恵を絞りに絞って出てきたアイデアを集め、そこから1つの施策を絞り込んでいくほうが質が高まると思います。

――そのあたりスタッフの反応はいかがですか?

もちろん、すぐに規格外の発想が次々生まれるほど簡単なわけではありません。メルカリマーケティングチームは優秀なメンバーが揃っていますし、施策もかなりハイクオリティです。そこに加えて、リミッターを外した思考ができるようになれば、より成長していけるだろうと感じています。

SNSを「発信の革命」として活用するには?

――村田さんは世間を驚かせるのがお好きなんでしょうか?

単純に驚かせたいわけではありません。ただ、マーケティングの施策を打つ際は当然、費用対効果を求められます。1つの施策に対して世間の人が驚いたり、SNSで話題になったりしたほうが拡散されるし、費用対効果、投資対効果も向上しますので、「どうすれば話題にしていただけるか?」という点は重視しています。

インターネットの出現によって、ホームページやブログなどを使った個人の情報発信が容易になりました。今はさらにハードルが下がって、Twitterで簡単につぶやくことが可能です。私はSNSを「発信の革命」だと思っています。ですからSNSを使って「自分が発見したことを言いたい」「人に知ってもらいたい」という気持ちを起こさせるような仕掛けが重要だと考えています。

――私もメディアが第4の権力なら、SNSは第5の権力になりつつあると思います。「発信の革命」を十分に活用するためには、まず人々の話題に上る施策が必要だということですね。

そうですね。SNSで取り上げていただけるような切り口を考え、追求していきたいと思います。

世界へ拡大する「メルカリエコシステム」の野望と期待

――村田さんは以前のインタビューで「メルカリらしいマーケティングを確立していきたい」とか「メルカリの価値を最大化するためのマーケティング」といったお話をされています。では、メルカリらしいマーケティングとは何でしょうか?

メルカリはテックカンパニーを目指しています。マーケティングの側面でも、AIやビッグデータなどのテクノロジーをしっかりと活用したマーケティングを実行していきたいですね。

メルカリはすでに大量のデータを保有しています。さらにこれからは「メルペイ」などのデータもたまっていきますので、購買履歴や行動履歴などのビッグデータを解析したデータドリブンな施策を展開し、テックカンパニーならではの強みをマーケティングに活かしていきます。

――では最後に、村田さんがこれからメルカリをどのように成長させようと考えているのかについて教えてください。

メルカリのミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」ということです。そこにマーケティング面で貢献していくのが私の仕事であり、どうすればより大きな成果を上げて事業を拡大・成長させられるのかを常に考えています。

――技術畑出身である村田さんの強みが発揮できそうですね。

そうですね。私はエンジニアやデザイナーとしてのキャリアもそれなりに積んでいますし、マーケターやCMO界隈の中では比較的、技術領域に強いタイプだと思いますので、プロダクトサイドで力を発揮できれば自分らしいかなと思っています。メルカリという、プロダクトで強くなってきた会社からオファーを頂けたのは、そういう理由でしょうから。

――メルカリUSの話題もネットに出ていますが、アメリカでの展開が本格化するのは、これからですか?

そうですね。メルカリUSの体制もしっかりとできていますし、マーケティング投資も強化しているので、これからの成長に期待していただきたいですね。

――なるほど。メルカリエコシステムが世界へ拡大していくわけですね。

実現したいですね。「メルカリ」を使えば、海外在住の方がお持ちの物が翌日、翌々日には日本に届くとか、海外旅行中に不要になった物を現地で売ったら、その売上金でちょっと贅沢できるとか、そんな世界観ができたら素晴らしいじゃないですか。

――それはすごいですね!本日はありがとうございました。

Interview Points
・認知形成のフェーズは終了。シニア層を含む全年代における新規ユーザーの獲得とアクティブユーザーの育成に注力。

・フリマアプリからライフインフラとして想起されるサービスへ。

・物事を多面的に見る習慣が、常識の枠を超えた発想を創出。

・優れたアウトプットのベースになるのは、幅広く積極的なインプット。

・SNSは発信の革命。良い形で話題を拡散してもらうための仕掛けが重要。

Profile
村田 雅行(むらた・まさゆき)
2006年4月、楽天株式会社に入社。システム開発やシステムインテグレーション業務に従事。2009年2月、キラメックス株式会社を創業。オンラインのプログラミングスクール「TechAcademy」を立ち上げる。2016年2月ユナイテッド株式会社へ売却。2018年6月代表退任。同年8月、株式会社メルカリ執行役員CMO(Chief Marketing Officer)に就任。

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして四半世紀以上のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう