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インタビュー

広告運用の内製化で検討したい「トライアングルインハウス」のすすめ

最終更新日:2023.05.31

Marketing Innovator #03

株式会社Shirofune

菊池 満長

デジタルマーケティングが企業活動の中核に近づくにつれ、リスティング広告やディスプレイ広告など、運用型広告のインハウス化を試みる企業が見られるようになっています。その背景には、自動化によって運用型広告のセオリー自体がシンプルになり、煩雑なオペレーションが不要になりつつあることなどがあります。また、「コストを削減したい」「施策のPDCAを回すスピードを上げたい」といった動機から、インハウス広告運用を検討する企業もいます。

しかし、変化のスピードが速く、専門的な知識やノウハウが必要となる運用型広告を社内で実施するのは至難の業です。インハウス化するにあたって企業が直面する課題に対し、どのような解決策があるのでしょうか。

今回は、広告運用ツールを開発・提供している株式会社Shirofuneの菊池満長さんをインタビュー。インハウス化の課題や今後の展望についてお伺いしました。

(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美、人物撮影:永井守)

目次

インハウス化を試みる企業に立ちはだかる2つの壁

――「Marketing Innovator」第1回でインタビューした栗原康太さんのご推薦を受けて、お話を伺いに来ました。菊池さんは、Shirofune創立以前も広告運用に携わっていらっしゃったんですよね。

はい。インターネット広告が黎明期だった頃、大手ネット広告代理店で広告の営業を担当していました。2002年頃に運用という概念が出てきてからは、業界内でも運用型広告の比重が高まっていき、インターネット広告のセールスと運用改善を朝から夜までやっていましたね。

2011年頃から本格的に広告運用のオペレーションを担うようになり、PDCAを回すための体制づくりやシステム設計に携わっていました。そうした経験を経てShirofuneを立ち上げたのが2014年のことです。

――長く広告運用に携わってこられて、ここのところ運用型広告を取り巻く変化で気になっている点はありますか?

GoogleやFacebookによるデジタル広告市場の寡占、機械学習による自動化の動き、インハウス化などが大きいとは思いますが、広い視点でいうと、それまでインターネット広告という切り出された分野として扱われていたのが、企業内部のデータや活動と一体となって考えられ始めていると感じます。

MA(Marketing Automation)やCRM(Customer Relationship Management)でどのようなデータを集めるか、収集したデータを何に活かすかといった、全体図をまとめて構築することが、より大きな成果を出していくために必要になっていると思います。例えばインターネット広告を切り出して分業化しても、単発の改善に終わってしまうでしょう。

そのため、広告運用の担当者に必要な知識も幅が広がっています。以前は広告分野に関する知識があればよかったのが、近年はHTMLやプログラミング言語のJavaScript、データ言語のSQLといった統合的な知識があって初めて、全体最適に近い発想ができるようになっています。

私が広告代理店で営業していたころは、HTMLもJavaScriptも全然わからなかったのですが、最近の人はおそらくわかるんですよね。自分でコードは書けなくても、ある程度話したり理解したりできる。理解していないとインターネット広告について考えるのが難しくなってきているので、広告運用担当者に求められる知識やスキルの難易度は上がってきていると思います。

――そういった中で、費用の削減や外部依存リスクの軽減、機敏性の向上といった理由から広告を自社で運用するインハウス化が起きているとのことですが、どれくらい進んでいるのでしょうか?

具体的に「何%」という数字まではわからないのですが、「あまりドラスティックに進んでいないのではないか」というのが我々の見立てです。おそらく、今インハウス化が進んでいるのは、小さい事業体とすごく大きな事業体という2種類のクラスターです。

まず小さい事業体は予算がそれほど多くなく、そもそも「自分たちでやらなければいけない」という状態のクラスターです。当人としてはインハウスかどうかを気にしておらず、「とにかくやってみるしかない」と進めている場合もあります。

一方、大きい事業体は、インハウス化に人件費などの十分なリソースをかけられて、かけた分のリターンも大きい状態にあるクラスターです。例えば、月に何億円もの広告投資を行っていて、人材の獲得や体制の構築についてもしっかりと取り組めているようなところです。それくらい本気で取り組むと、広告運用はインハウス化できるものだと思います。

小さい事業体と大きい事業体という両極端なクラスターに関してはインハウス化がすごく進んでいるイメージがありますが、その2つの中間層にあたる事業体は、進めようとする意思はあっても現実的には課題が多くて難しいという結論に落ち着いている気がします。そのため、運用型広告については広告代理店にお願いしているところがほとんどです。

――中間層の企業がインハウス化するにあたって直面する課題というのは、具体的には何が挙げられますか?

インハウス化を達成するには、2つの条件があると考えています。1つはノウハウを獲得することで、もう1つは体制を構築することです。

ノウハウを獲得するためには、自社以外の企業で経験を積んできた人材の採用が必要です。テクノロジーの進化などによって広告の運用自体はシンプルになりつつありますが、未だにそのハードルは高いためです。広告運用に携わったことのない人ができるようになっているかというと、そうではないと思っています。

しかし、広告主の数に対し、広告運用の経験やスキルを持った優秀な人材の数は限られているので、圧倒的に足りていません。ノウハウを獲得しようと採用を始めても、結局採用できずにインハウス化を進められない、という状況が起こります。

そして、他社で経験を積んだ人を自社に連れてくるためには、これまで社内になかった職種を新たに定義したり、その人がどんな風に活躍できるのかを提示したりする必要があります。在職中の職場を超える魅力的な環境がなければ、スキルを持っている人がその企業に行く理由がなくなってしまうからです。

仮にそこで一人だけ採用できたとしても、属人化すると、その人個人に依存する環境になってしまいます。社内にノウハウがあってもスキルを持つ人に依存する状態になるので、マネジメントできる人材がさらに安定的な組織体制を作る必要があります。

新たな人材の採用、評価制度や組織運営の設計などが求められますが、それらもハードルが高い業務です。

そもそもスキルを持った人材を自社に連れてくるのが難しい上に、その人と別の人を含めたチームで組織化し、自社で安定的に運用を行える体制をマネジメントしていくのが難しいんです。

二項対立ではなく三位一体となる考え方がベスト

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・インハウス化を試みても失敗してしまう会社の特徴や傾向
・広告運用の担当者が最低限身に付けておいたほうがいい知識やスキル

記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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