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インタビュー

ライオン マーケティングデザインセンター部長 大村和顕が語る「ライオンのマーケティング改革とAI時代に活躍する人」

最終更新日:2026.04.22

The Marketing Native #87

ライオン

マーケティングデザインセンター部長

大村 和顕

多くの人が一度は使ったことがあるであろう、ライオンのプロダクト。ただ、ライオンという企業名は知っていても、商品ブランドの名前までは思い出せないという人もいらっしゃるでしょう。

今ライオンでは、店頭想起を重視する日用品のマーケティングという特性を踏まえつつ、AIの活用やデータ基盤の強化、マーケティングプロセスの見直しといった変革に取り組んでいます。

今回は、ライオンに新設されたマーケティングデザインセンターで部長を務める大村和顕さんをインタビュー。中長期で企業価値を高めるマーケティング改革とAIとの向き合い方、AI時代に活躍する人材の条件について伺いました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

新設の部署が担う、マーケティング全体の構造改革

――まずキャリアから教えてください。大村さんご自身がキャリアの方向性を決定づけるに至ったエピソードは何かありますか。

新卒では旅行代理店に入社しました。バックパッカーとして旅行が好きだったことが理由でしたが、実際に「旅行に行くこと」と「旅行を売ること」は大きく異なると気づき、約2年半で退職。その後、エンジニアに転身しました。

インタビューを受けるライオン マーケティングデザインセンター部長 大村和顕さんの画像

子どもの頃からPCに親しみがあり得意だったことと、当時(2000年代初頭)コンピューターやインターネットがこれから大きく成長すると考えられていたためです。そこから約6年間、Linuxエンジニアとして働きました。

ただ、文系出身ということもあり、理系出身の先輩エンジニアと一緒に仕事をする中で、自分との差を感じるようになりました。例えば、私は退勤後に友人と食事に行くような生活をしていたのですが、先輩たちは自宅でもソースコードを読み込み、分析しながら楽しそうに仕事に向き合っていました。このままでは差は縮まらないどころか広がる一方だと感じ、エンジニアとしてのキャリアを見直す決断をしました。

その際、世界を変えるのはエンジニアそのものではなく、エンジニアリングを理解した上で価値を提案できる人ではないかと考えるようになり、アイ・エム・ジェイ(IMJ)に転職。大手企業をはじめ、さまざまなクライアントとデジタルマーケティング領域で仕事をさせていただきました。

その後、IMJを約6年で退職し、渡米。ハワイで約5年間、エステやサロンを経営しながら、日本では友人とともに「ユニット・ワン」という会社の立ち上げに関わりました。公表できる大きな実績としては、無印良品のアプリ「MUJI passport」の開発に携わり、数多くの賞をいただいたことが挙げられます。

それから、「戻る」と約束していたIMJに復帰しましたが、会社の環境変化などもあり、2017年にライオンへ転職しました。

振り返ると、エンジニア時代に「エンジニアとして突き抜けるのではなく、エンジニアリングを活用して世の中に価値を提案できる人になるべきだ」と考えたことが、自身のキャリアの方向性を決定づけた出来事だったと思います。

――ありがとうございます。ライオンに入社後はビジネス開発センター本部長などを経て、今年1月からマーケティングデザインセンター部長に就任されたとのこと。この部署は新設とのことですが、立ち上げの背景と、大村さんの期待役割を教えてください。

もともとビジネス開発センターという組織がありましたが、組織再編に伴い、マーケティングデザインセンターへと名称が変わり、あわせて機能の再配置が行われました。

ビジネス開発センターでは、メディアバイイング、宣伝活動、コミュニケーション設計、企画などのプランニング、クリエイティブの開発・制作、新規事業開発、生活者調査・分析、マーケティングサービスの構築、デジタルマーケティングなど、ブランド組織を横断するマーケティングを幅広く担っていました。

ライオンでは今年からバリューチェーンを束ねた「ビジネスユニット」制で事業活動を行っていますが、組織再編に伴い、宣伝広告機能は、国内ビジネスユニット内に移管されました。

一方、マーケティングデザインセンターでは、宣伝広告機能の移管に伴い、コーポレートブランディングに加え、グローバル視点でのブランド戦略を統合的に担う体制となりました。あわせて、AIを活用したマーケティング全体の構造改革や、新規事業も含めた将来に向けた基盤構築を担当しています。

簡単に言うと、事業部門はP/L(損益)責任を持って業績を上げる部門であり、短期的な収益の最大化が求められます。一方、我々の部門は、中長期的な視点で会社の方向性を描きながら、短期では取り組みにくい大きな変革の枠組みを構築していくことがミッションです。

インタビューを受けるライオン マーケティングデザインセンター部長 大村和顕さんの画像

進化を続けるブランド戦略と、店頭想起が軸のマーケティング

――ライオンのブランディングといっても、すでに創業から130年以上の歴史がありますよね。

国内におけるブランドの認知や基盤は十分に築けていると思いますが、それでも常に変革と進化は必要です。そのため、2030年に向けたリブランディングを現在計画しています。

ライオンはこれまでも継続的にブランドの見直しを行ってきました。タグラインも時代に合わせて変化しており、かつては「おはようからおやすみまで暮らしに夢をひろげる」というコピーを掲げていましたが、現在は「今日を愛する。」になっています。こうした取り組みは一度きりではなく、継続して行っていくものです。

一方、海外に目を向けると、ライオンという名前の認知がまだ十分とは言えない地域も多くあります。現在は東南アジアや北東アジアを中心に事業を展開していますが、今後はその他の国・地域も含め、グローバルでのブランド浸透を本格的に進めていく方針です。

――マーケティング全体の構造改革とは、どのような取り組みなのでしょうか。

大きなテーマの一つが、AIの活用です。例えば、生活者調査データやオウンドメディア「Lidea」(リディア)から得られる情報をもとにAIを活用してインサイトを分析・抽出し、プロダクト開発やコミュニケーションに反映したり、将来の需要を予測したりする取り組みを進めています。

実際に、コンセプト設計の段階からAIを活用しており、製品の上市までのリードタイムを大幅に短縮する取り組みを進めています。時代の潮流を捉えてから製品が市場に出るまでの期間が短くなることで、結果として上市後の成功確度の向上につながっています。

このように、AIの活用によるマーケティング全体の高度化は、現在進めている重要な取り組みの一つです。

――わかりました。では、あらためて大村さんから見て、「ライオンのマーケティングとはどんなことですか」と聞かれたら、何と答えますか。

ライオンというよりも、日用品のマーケティングは少し特徴的だと思います。例えば、洗剤の広告を見てECサイトでそのまま購入する方は、それほど多くないでしょう。我々の製品は、広告を見たらすぐに欲しくなって購入されるというよりも、使い切ったタイミングで補充されることが多い商品です。つまり我々のマーケティングは、単に興味を喚起するだけでなく、必要になったときに店頭で商品を手に取る、その瞬間に思い出してもらうことが重要になります。

――「汚れがすごく落ちる新製品です」などの広告はありますよね。

テレビCMなどでライオンの新製品であることを印象づけることは大事ですが、我々の商品は「低関与商材」と呼ばれる領域にあります。そのため、詳細な性能まで記憶している方はそれほど多くないと思います。

実際、ライオンという企業名の認知は高い一方で、「ライオンの商品ブランドをいくつか挙げてください」とお聞きすると、すぐに答えられる方は多くありません。広告に接触していても、多くの場合、商品名や性能まで強く記憶されているわけではないのです。

だからこそ、店頭に行った際に思い出してもらえるかどうかが重要であり、そのための設計に注力しています。

また、一度使っていただければ継続購入につながる可能性も高いため、サンプリング施策も重視しています。

――なるほど。確かにブランド名を聞かれると、答えに詰まる人が多いかもしれないですね。

そうですね。だからこそ、店頭で思い出してもらうことが重要です。

一般的に、ライオンのような日用品のEC化率は10%前後と言われていて、高いとは言えません。背景には、ドラッグストアが生活動線上にあり、実店舗のほうが価格面・利便性の両面で優位なケースが多くあるからです。

こうした状況を踏まえ、我々は、店頭に行った際に自然と思い出してもらえるようなコミュニケーション設計に注力しています。特に、テレビCMなどの広告接触から店頭体験までの流れが分断されてしまうと、想起につながりにくくなります。そのため、クリエイティブやメッセージを一貫させ、接点をまたいでも同じ印象が残るよう意識しています。

インタビューを受けるライオン マーケティングデザインセンター部長 大村和顕さんの画像

Lideaを起点にしたデータ活用と、SEO・AIへの向き合い方

――確かにハブラシやハミガキをECで購入するイメージはあまりないですね。

そうですね。日常的に使う軽量な商品については、店頭で購入するケースがまだ主流だと思います。一方で、大容量の洗剤などはEC化が進んでいます。重量があり、ドラッグストアから持ち帰るのが大変なため、配送の利便性が評価されているからです。

――ちなみに、Lideaのデータはどのように活用しているのでしょうか。

Lideaのデータは、マーケティングのさまざまな場面で活用しており、重要な役割を担っています。インサイト分析に用いるのはもちろん、「このコミュニケーションで狙ったターゲットが想定通りに態度変容するか」という点を、世の中に出す前に検証するプラットフォームとしても機能しています。

――次に、AIについては、今後どのように活用していこうとお考えですか。

先ほど申し上げたように、生産性向上に伴うリードタイム短縮などでAIを活用しており、一定の効果を得ています。

一方、AIが進化しても、情報を適切に届けて、態度変容を促すというマーケティングの本質的なところは変わらないと考えています。

また、AI Overviewsや、AI検索最適化(GEO/LLMO)など、AIに適切に取り上げられるための取り組みも話題ですが、現時点では情報収集の段階であり、すぐに取り組むのではなく、冷静に見極めたい考えです。

SEOも同様ですが、Googleのアルゴリズムが変わると検索結果の順位が大きく変動することがあります。そうした変化に過度に対応することにリソースを投じるよりも、基本的には「正しい情報を継続的に発信する」ことが重要と考えています。

もちろん、オンラインを主軸にビジネスを展開している企業であれば、AI検索最適化に関心を持ち、いち早く取り組むのは自然な流れだと思います。しかし、我々は店頭を中心としたビジネスです。

――これまでSEOについては取り組んできましたか。

Lideaを通してかなり取り組んできました。SEOはある程度ルールや傾向が明らかになっていて、再現性を持って取り組める領域という認識です。

一方で、現在のAI検索最適化については、どのようにすればAIに適切に取り上げられるのかがまだ明確ではなく、多くの企業が試行錯誤している段階にあると感じます。したがって、SEOのように一定のノウハウや型が整理されてきた段階で、対応を検討したいと思います。

――AI時代において、Lideaはどのように変化していくとお考えですか。

難しいテーマです。AIによって情報が要約して提示されるようになると、結果としてLideaの記事そのものが読まれにくくなる可能性があります。

生活者にとっては、信頼できる情報を効率的に得られれば十分なのかもしれません。一方、我々にとっては、その情報がLideaの記事であり、さらにその商品がライオンのものであるという点まで正しく認識していただきたいという思いがあります。この点は重要なポイントです。

また、サイトへの流入が減少すると、ユーザーの行動分析が難しくなるという課題もあります。そのため、オウンドメディアに依存しない形での新たな接点やデータ取得の手段について、今後検討していく必要があります。

――代わりに動画の活用などはどのようにお考えですか。

動画によるコンテンツ配信についても検討しています。例えば、汚れを落とすための生活の知恵やテクニックは、文章で説明するよりもショート動画のほうが直感的に理解しやすい側面があります。そのため、こうした動画コンテンツの制作にも今後取り組んでいくつもりです。

一方で、ショート動画においてLideaと同様の行動分析が可能なのか、また態度変容につなげられるのかについては、まだ不確実な部分も多いと思います。したがって、効果検証を行いながら、慎重に設計していく必要があります。

事業・マーケ・テクノロジーをつなぐ力と、AI時代のマーケター像

――次に、Marketing Native恒例の質問なのですが、転職して現在9年目で、大手企業で部長や本部長を務めていらっしゃいます。ご自身では、他の方と比べてどのような点に力を入れてきた、あるいは強みだとお考えですか。

先ほど申し上げたように、私はハワイで事業を立ち上げたり、日本で友人と会社経営に携わったりしてきました。その過程で、事業開発の力とマーケティングのスキルを実務を通して身につけてきたと考えています。加えて、エンジニアとしてのバックグラウンドがあるため、システムへの理解もあります。

こうした「事業×マーケティング×テクノロジー」の3つを横断して理解している点は、現在のビジネス環境において市場価値が高く、重要な強みの一つだと感じます。実際、この3つの領域を横断的に担える人材はまだ多くなく、企業側も採用に苦労しています。

事業戦略を設計し、それをコミュニケーションに落とし込み、さらにシステムとして実装していく。こうした一連の流れをスムーズにつなげられる点が、自身の強みです。

――それは確かに貴重な存在ですね。

各領域の理解が浅いまま幅広く連携しても、大きな成果にはなかなかつながりません。部下にも何か1つ、専門領域を持つことが重要だと伝えています。

その上で、専門領域を軸にしながら他の分野にも理解を広げ、連携させていくのが大事です。私の場合はシステムが大きな柱であり、そこを起点にマーケティングや事業開発の領域を実務の中で広げてきました。

その結果、仕事の幅が広がり、自身の価値も高めることができました。こうしたあり方が、これからのマーケターに求められる姿の一つではないかと思います。

――それはAI時代でも同様でしょうか。

基本的にはそうですが、「AI時代」と頭に付く場合は、大前提として行動力の重要性を強調したいです。「とにかくAIは便利。AI時代になれば、何もせずAIに任せればよい」と考える人が今後増えていくかもしれません。

しかし、AIを活用して高度な分析ができたり、質の高い資料を高速で作れたりしても、そこで満足していては前に進みません。実際にお客さまのところに足を運び、お客さまと向き合い、交渉する――こうした行動はAIには担えないため、最終的な成果を勝ち取れるかどうかは人の行動力にかかっていると考えます。逆に言うと、行動力のある人ほど、AIの価値を引き出せる可能性があるのではないでしょうか。

AI時代のマーケターは、AIの利便性に驚き満足するあまり、行動しなければ成果につながらないという本質を見失いがちになるおそれがあると感じています。AIの活用にとどまらず、現実の行動につなげていくことが重要です。

インタビューを受けるライオン マーケティングデザインセンター部長 大村和顕さんの画像

マーケティング変革への挑戦と、スモールスタートへの転換

――最後に、大村さんがこれから挑戦したいことを、組織と個人の両面で教えてください。

組織としては、ライオンのマーケティングのあり方を大きく変えていきたいと考えています。

例えば、これまでのマーケティングフローは多くのルールが厳格に定められており、さまざまな検証プロセスを経なければ市場に投入できない仕組みになっています。

また、テストマーケティングのようなスモールスタートについても、十分には取り組めていませんでした。その結果、基本的には大量生産・大量配荷を前提とした進め方になっていて、この方法では失敗した際のリスクが大きくなります。そうすると、1年半から2年ほどかけて準備した製品でも、市場投入後に期待した成果が得られないケースが続くと、新製品開発そのものに対して慎重にならざるを得ません。

マーケティングフローのリードタイムを短縮するとともに、スモールスタートでテストを行い、顧客の反応を見ながら、成果が見込める場合には大きく展開していく。そうした進め方を組織として確立していかなければなりません。

今の時代においては、リスクを最小化しながら成果を最大化していくマーケティングへの転換が不可欠です。これに今取り組まなければ、将来的に大きな遅れにつながる可能性もあります。そのため、組織としては1〜2年のうちに一定の成果を出すことを目標に取り組んでいきます。

――社員の皆さんは納得してくれそうですか。

ありがたいことに、経営トップや事業の責任者の方々が理解を示し、我々の取り組みを後押ししてくれている状況ですので、現時点では大きな障壁はそれほどないと感じています。

――次に、個人として挑戦したいことは何ですか。

息子がまだ8歳なのですが、プログラミングに興味を持っていて、すでに自分でゲームを作って遊んでいます。個人的には、副業で息子と会社を立ち上げ、息子が高校生くらいになったタイミングで事業を引き継ぐようなことができたら面白いと考えています。

――これからそういう事例が増えそうですね。

はい、そのような時代になっていくと思います。中学生や高校生がAIを活用して起業することが、特別なことではなくなる可能性があります。

――大変な時代ですね。

本当に変化の激しい時代です。その分、学び続ける姿勢がこれまで以上に重要になっています。特にAIについては、今取り組んでいるかどうかで大きな差が生まれつつあると感じます。

AIを敬遠すると、チャンスを逃したり、周囲に差をつけられたりする可能性があります。これからのマーケターはAIを積極的に学び、活用しながら、実際の行動につなげて成果を上げていくことが求められると思います。

――本日はありがとうございました。

LIONの公式キャラクター、ライオンちゃんのぬいぐるみと一緒に写る、マーケティングデザインセンター部長 大村和顕さんの画像

Profile
大村 和顕(おおむら・かずあき)
ライオン株式会社 マーケティングデザインセンター部長。
大手旅行代理店、大手SIerを経て、2006年にアイ・エム・ジェイへ。ナショナルクライアントのデジタル戦略策定、Webサービスやアプリケーションの開発をプロデュース。2017年ライオン入社。2020年1月エクスペリエンスデザイン部長。2025年1月ビジネス開発センター本部長として、コミュニケーション、クリエイティブ開発、メディアバイイング、市場・生活者調査、新規事業開発など幅広くマーケティング領域を管掌。2026年1月より現職。

ライオン株式会社
https://www.lion.co.jp/ja/

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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