facebook twitter hatena pocket 会員登録 会員登録(無料)
注目トピック

街全体が企業のパートナーに。社会課題をビジネス機会に変える「柏の葉スマートシティ」

最終更新日:2025.06.24

公・民・学が組織の垣根を越えて連携・共創し、課題解決型の街づくりに取り組む「柏の葉スマートシティ」。千葉県・柏市に位置するつくばエクスプレス「柏の葉キャンパス駅」から半径2キロメートル圏内で形成される同エリアは、街全体が実証フィールドとなっており、大手企業やスタートアップ、大学、行政など多様なプレイヤーが連携し、オープンイノベーションの実現を目指しています。これまでも多くの企業が実証実験や共創プログラムに取り組んできました。

企業が“街”と連携することでどのような課題を解決し、イノベーションを創出できるのか──。Marketing Native Fes 2025 Springでは、一般社団法人UDCKタウンマネジメントに参画する三井不動産 柏の葉街づくり推進部 事業グループ グループ長の石田義勝さんと、読売広告社 コミュニティクリエイションビジネス局 コミュニティクリエイション開発ルームの高橋比香理さんが登壇。「柏の葉スマートシティ」の詳細と、組織の壁を越えた取り組み内容のリアルが語られました。

(文:和泉 ゆかり、撮影:永山 昌克)

※本記事は、Marketing Native Fes 2025 Springでの講演内容について、登壇者の方々の許可を得たうえで読みやすく編集したものです。

目次

イノベーションが生まれる街「柏の葉スマートシティ」とは

読売広告社 高橋(以下、高橋)  読売広告社の高橋です。本日は三井不動産さんと共に参画している、一般社団法人UDCKタウンマネジメントのメンバーとして登壇しています。

今回ご紹介するのは、千葉県柏市にある「柏の葉スマートシティ」でのプロジェクトです。「世界の未来像」をつくる街として、イノベーションによる社会と事業の課題解決を目指しています。私たちが参画するUDCKタウンマネジメントは公・民・学連携で「柏の葉スマートシティ」の街づくりを推進する団体で、UDCKは「アーバンデザインセンター柏の葉」の略です。

柏の葉は、つくばエクスプレスの「柏の葉キャンパス駅」を中心に2キロメートル圏内で形成されているスマートシティです。緑豊かな公園に囲まれており、東京大学や千葉大学のキャンパス、国立がん研究センター東病院などがあります。計画人口26,000に対し、現状13,000人の方々が居住している、これから成長を続ける街です。

「イノベーションによる社会と事業の課題解決」と申し上げましたが、ピンと来ない方がいらっしゃるかもしれません。実際の企業との取り組み事例をご紹介します。

例えば、ITS推進協議会とは、街の公道を用いた自動運転レベル4(※) のバスの実証実験を実施。学生たちが利用している姿も日常風景となっています。また、花王様とのお取り組みでは、「産前産後の孤独になりがちなパパ・ママをどのように地域や企業がサポートしていくか」という課題について、住民の皆さんを巻き込みながら共にアイデアを実装しました。

※自動運転レベル4:5段階に分かれる自動運転レベルの4段階目。レベル4は場所や天候、速度など特定の条件下における完全自動運転を指す。

画像提供:UDCKタウンマネジメント

現在、私たちは超高齢化社会や経済構造の変化、生活コストの上昇、気候変動など、多くの社会課題に直面しています。企業の皆さまにおいて、自社の事業や商品開発では、こうした社会課題の解決を念頭に置いたビジネス展開がスタンダードになっていることでしょう。しかし、こうした社会課題解決のためには、個人や単一組織だけで挑むのではなく、組織の垣根を越えた連携や共創、そして一般生活者の皆さまも巻き込んでいくことが必要です。

そこで私たちは本イベント全体のテーマである「事業を伸ばす強いマーケティング組織の作り方」の一つの解として、公・民・学の連携を挙げます。多様なプレイヤーを巻き込みながら街づくりを行う私たちの取り組みに、強い組織づくりのヒントがあるのではないかと考えています。

読売広告社 コミュニティクリエイションビジネス局 コミュニティクリエイション開発ルーム 高橋比香理さん

三井不動産 石田(以下、石田) 三井不動産の石田です。私からは、まずこの地の歴史を紹介します。

柏の葉キャンパス駅は、2005年、三井不動産グループが保有していた柏ゴルフ倶楽部跡地に開業しました。

柏の葉は、現在、駅前マンションの人口が約13,000人、都心から約30分という立地に加え、緑豊かな環境と、「職・住・遊・学」の多様な機能を併せ持つミクストユース開発(※)による利便性の高い街です。分譲・賃貸マンション、商業施設、ホテル、オフィス、カンファレンスセンターなどの複合機能を半径2キロメートル圏内に集約した、コンパクトな街づくりを実現しています。

※ミクストユース:土地や建物に複数の異なる用途を持たせること。

画像提供:UDCKタウンマネジメント

弊社が街づくりを開始した頃と比較すると、不動産価値は着実に上昇しており、駅の乗車客数も一日20,000人を超え、開業当初の5倍以上に増加しています。つくばエクスプレス沿線は今後10年以上にわたって、さらに人口が増加していく成長エリアといえるでしょう。

また、分譲マンションだけでは世代に偏りが生じやすいため、賃貸住宅やワーカー層の人口を増やすなど、多様な人々が将来にわたって交流できる環境を整備してきたことも特徴として挙げられます。

三井不動産 柏の葉街づくり推進部 事業グループ グループ長 石田義勝さん

公・民・学連携で課題解決型の街づくりを推進

石田 続いて、「柏の葉スマートシティ」の街づくりのスキームおよびコンセプトについて説明します。「柏の葉スマートシティ」の街づくりが始まったのは今から約20年前です。推進主体として街づくりの中枢機関を設立し、ビジョンの共有、公・民・学の連携…と進めてきました。

推進主体は、UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)で、柏市、つくばエクスプレス、商工会議所、田中地域ふるさと協議会(町内会の統括組織)、東京大学、千葉大学、三井不動産といったメンバーによって構成されています。2006年に体制を整備した後、関係者が集まる拠点を開設しました。こうした公・民・学の連携拠点となるアーバンデザインセンターは、柏の葉を第1号として、現在は全国約30カ所に存在しています。その後、2008年に「柏の葉国際キャンパスタウン構想」と呼ばれる長期の街づくりビジョンを策定。約20年が経過した現在においても、公・民・学が友好かつ良好な関係を継続し、街づくりを進めています。

街づくりを推進する共創プラットフォームであるUDCKは、街のシンクタンク・コーディネーター・情報発信などの機能を担う。UDCKを母体とした法人組織であるUDCKタウンマネジメントは公共空間の管理運営を担い、事業領域の拡大に合わせて組織を柔軟に拡大している(画像提供:UDCKタウンマネジメント)

このように「柏の葉スマートシティ」には多くのプレイヤーが集積しています。課題解決型の街づくりは、単独の企業では決して実現できません。千葉県、柏市といった行政機関から大企業、スタートアップ企業、そして住民の皆さまなど、多様なプレイヤーを巻き込んだ共創事業によって課題解決型の街づくりを進めています。多様なプレイヤーが集積していることが、イノベーション創出の鍵と考えています。

街づくりを推進するメンバー:https://www.kashiwanoha-smartcity.com/member/

世界の未来像をつくるための3つのテーマ

石田 「柏の葉スマートシティ」のコンセプトは、『「世界の未来像」をつくる街』です。課題先進国である日本が世界に先駆けて直面している社会的課題を、街づくりを通じて解決し、世界の未来像をつくることを目指しています。

具体的には「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」という3つのテーマを掲げています。

■「環境共生」に向けた取り組み

人と地球にやさしく、災害にも強い街を目指しています。例えば、柏の葉ではエリアエネルギー管理システムを構築し、日本で初めて街区を越えた電力融通を実現しています。太陽光発電と蓄電池を備えた建物間で電力を融通し合うことによって、エリア全体のピークカットと省エネを進め、非常時には住宅棟にも電力を供給し、BCP(事業継続計画)・LCP(生活継続計画)の強靭化に貢献するシステムです。

また、緑化を施したウォーカブルデザインを導入して、なるべく車に依存しない社会づくりを進めています。さらに国際的な環境性能認証制度「LEED」の街づくり部門の計画認証において、最高ランクとなる「プラチナ認証」を日本で初めて取得するなど、環境に配慮した街づくりを進めています。

■「健康長寿」に向けた取り組み

すべての世代が健やかに安心して暮らせる街づくりに取り組んでいます。例えば、街の健康研究所「あ・し・た」は「あるく・しゃべる・たべる」の略称で、参加型の健康づくり拠点です。現在3,800人以上の会員が集まっており、健康データの蓄積、健康関連イベントの実施、大学や行政との共創による実証実験などを行っています。

当初は、「住むだけで健康で長生きできる」という予防的視点の取り組みが中心でしたが、近年では国立がん研究センターとの連携を強化させることで、予防から高度医療開発まで行う「ライフサイエンス拠点化構想」を推進しています。

■「新産業創造」に向けた取り組み

目指すのは、日本の新しい活力となる成長分野を育む街です。「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」というオフィスシリーズを展開し、起業家や事業家の交流、共創を促進しているほか、スタートアップを支援するプログラムを提供しています。

また、オフィスや研究所で研究したことを実証できる場として設けているのが「イノベーションフィールド柏の葉」です。街を舞台にした実証プロジェクトの受け入れを一括して行う実証プラットフォームを提供しています。

もう一つ注力しているのが、スタートアップや新産業創造の支援です。ビジネスアワードの開催や、スタートアップの成長段階に応じた伴走型支援システムの整備などを行っています。

このほか、「柏の葉データプラットフォーム」として、ポータルサイトやデータ連携基盤を構築し、新たなサービス開発を可能にするインフラも整備しています。

そして、「柏の葉スマートシティ」の大きな特徴は、住民主体型の街づくりを行っている点です。「みんなのまちづくりスタジオ」では、街や住民が抱える課題について、大学や企業がプロジェクトリーダーとなり、ワークショップの開催をはじめ、新サービスの開発から実証、社会実装までを行っています。

画像提供:UDCKタウンマネジメント

「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」という3つのテーマに沿った取り組みを通じて、「柏の葉スマートシティ」の価値創造モデルを構築してきました。公・民・学の連携により集まったさまざまな「プレイヤー」と「共創プラットフォーム」、そして「アセット整備」を掛け合わせることで、社会課題の解決、新産業創造を通じた日本の発展への貢献といった「社会的価値」と、街の付加価値向上や新事業領域の探索、新事業の創出などの「経済的価値」を実現するモデルを描いています。

画像提供:UDCKタウンマネジメント

オープンイノベーションを推進する第3ステージへ

石田 近年は多くの企業からR&D拠点として「柏の葉スマートシティ」への進出をご検討いただいています。具体的に評価いただいているのは、主に以下の3点です。

1.地理的要因
都心に近接していることと、安全保障の観点で日本が再評価されていること

2.人材雇用
沿線全体で生産年齢人口が増加していること、ミクストユース開発により働き方・住まい方が人材採用に有利な環境であること

3.オープンイノベーションへの期待
大企業、スタートアップ、アカデミアの連携による共同研究や技術連携、住民参加型の社会実証、行政の効果的なサポートなど、イノベーション創出の可能性が高いこと

例えば、空気圧制御機器メーカーとして世界トップシェアを誇るSMCが、「筑波技術センター」の移転先として、柏の葉エリアに新技術センターを2026年4月に開設する予定です。アカデミアとの共創環境(イノベーション)とワーカーのQOL(Quality of Life)の両立を目指しており、約1,300人の従業員の方が働く予定で、かつグローバル拠点となるため海外からも多くの人材が集まります。

また、英国名門パブリックスクールでラグビー発祥の地でもある「Rugby School」の日本校が首都圏で初めて開校しており、国際化も進展しています。最終的に学生数は約800人、教職員数は約200人となる見通しで、200人以上の外国人の方々が街に住むことで人材の多様性がさらに進みます。

あらためて「柏の葉スマートシティ」のこれまでを振り返ると、第1フェーズでは基盤整備を進め、多様な世代の人々が集まる街をつくりました。第2フェーズでは、実証の場の提供やコミュニティの醸成によりプラットフォームを構築。そして現在の第3フェーズでは、これらのプラットフォームを活用して新たな事業を創造し、オープンイノベーションを推進するステージに入っています。

街が成長し、アセットやスマートシティのインフラ、コミュニティが整備されてきた今、今後はそれらを土台に社会課題解決を目指すパートナーを増やし、共創事業をさらに加速させたいと考えています。

画像提供:UDCKタウンマネジメント

街全体がパートナーになるビジネスプログラム「CO-GROWTH」の取り組み

高橋 お話ししてきたようなイノベーションが生まれる環境を、より多くの方々と分かち合っていくために、UDCKタウンマネジメントではビジネスプログラム「CO-GROWTH」をスタートさせました。文字通り、街全体がイノベーションを目指す皆さまのパートナーとなるプログラムです。

画像提供:UDCKタウンマネジメント

ビジネスのR&D(研究開発)・PoC(実証・社会受容性検証)・市場創造・プロモーションまで、事業開発のすべてのプロセスを、UDCKタウンマネジメントがワンストップで提供します。

画像提供:UDCKタウンマネジメント

「柏の葉スマートシティ」には豊かなエコシステムが形成されています。共創に積極的な13,000人の住民、アカデミア、そしてそれらを有機的につなげるプラットフォームも整備されています。住民の方々が実証実験に積極的であることは、私自身もプロジェクトを推進する中で実感しています。

画像提供:UDCKタウンマネジメント

例えば、明治様とは「ヨーグルトで街にミライをプロジェクト」と題し、柏の葉での活動を通じて新しい市場や生活者との接点開拓に取り組んでいます。

このプロジェクトは主に2つの軸で活動しています。一つ目はエリア全体の健康長寿や環境改善を目指す巻き込み施策、もう一つは各種ヨーグルトの喫食による効果や街のウェルビーイング向上の実証です。柏の葉ならではの街の交流拠点や情報発信の仕組み、アセットを活用し、住民の方々にも参加していただきながら、より健康な未来に向けてヨーグルトの価値を向上しようと取り組んでいます。

画像提供:UDCKタウンマネジメント

2024年度までに、歩いた後にヨーグルトを摂取してもらう「ウォーキングルト」と、うがいやお口体操、はみがきの仕方を学び、健康を促進する「お口から体調管理教室」を、街の保育園と協力して実施しました。2025年度からはアカデミアとの共同研究を予定しており、ヨーグルトをきっかけとした健康増進活動による街全体のウェルビーイング向上実証等の研究を進める計画です。

これらの取り組みは企業内に閉じるのではなく、活動自体を話題化してPR効果を狙うことも視野に入れています。プロジェクト全体を通じて、研究開発から実証実験、実装・発信までを一気通貫で実現できていることが特徴です。

ほかにも「アカデミアやスタートアップとの共同研究でR&Dを加速させたい」「一般生活者を巻き込んだプロジェクトを実施したい」「データプラットフォームなどのインフラを探している」「『街』というリアルな場で実証・社会実装をしたい」といったニーズを持つ、さまざまな企業との共創が進んでいます。

石田 最後に、「柏の葉スマートシティ」が皆さまと共に目指したいことをまとめます。社会課題の解決やオープンイノベーションは、閉じた環境の中では決して成し遂げられません。外部との連携を着実に深め、サステナブルに人材や企業、鮮度の高い情報を集積させ、それらを有機的に連携させていくことが必要不可欠です。

ここまでお伝えしたとおり、「柏の葉スマートシティ」にはさまざまな共創プラットフォームが構築されています。実証や社会実装の場、多様なコミュニティなどを企業の皆さまにもご活用いただき、多くのプレイヤーと共創事業を推進することによって、社会課題の解決を実現していきたいと考えています。

また、こうした取り組みは潜在市場の発掘が期待でき、新たな市場創造につながります。多くの企業の皆さまとの共創事業を通じ、新たな市場の創出も目指してまいります。

興味を持った方は、ぜひ実際に「柏の葉スマートシティ」に足を運んでいただけましたら幸いです。本日はありがとうございました。

Profile
石田 義勝(いしだ・よしかつ)
三井不動産株式会社
柏の葉街づくり推進部 事業グループ グループ長。
1992年に三井不動産入社後、住宅事業を16年間、企画調査部にて不動産協会や経団連、行政対応に4年間従事。その後、スマートシティ企画推進部では3年間、日本橋・柏の葉を代表例に全社のスマートシティ戦略を策定した後、環境・エネルギー事業部で、再エネ発電事業や環境対応(脱炭素等)に8年間従事。現在は柏の葉街づくり推進部にて、UDCK、UDCK-TMを中心としたエリアマネジメント業務、既存アセットの運営管理に2年間従事している。

高橋 比香理(たかはし・ひかり)
株式会社 読売広告社
コミュニティクリエイションビジネス局 コミュニティクリエイション開発ルーム。
2016年読売広告社に入社後、不動産・Webサービス・菓子・飲料など、幅広い業態のクライアント業務の中で、ブランド・ソーシャル領域(TTL制作/戦略/各種プロモーション)・事業構想サポート・R&D研究・自社サービス開発に従事。現在は「柏の葉スマートシティ」にて実証実験設計・公民学連携プロジェクトのマネジメント等、タウンマネジメントを基軸としたトータルプロデュースを担う。「都市視察プログラム」「CIVIC PRIDEⓇ編集部」や「iBASHO」等、自社内でのプロジェクトにも参画。

柏の葉スマートシティ:https://www.kashiwanoha-smartcity.com/

記事執筆者

和泉ゆかり

いずみ・ゆかり
IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。
執筆記事一覧
週2メルマガ

最新情報がメールで届く

登録

登録