渇いたのどを潤す冷たいビール。日本のビール市場は、成熟期を迎えた今も、消費者の嗜好の多様化やノンアルコール市場の拡大、酒税改正など、大きな変化の波に直面しています。こうした激しい環境の中で、サッポロビールは独自のマーケティング戦略を掲げ、広告と体験によってファンを拡大し、ブランドの成長に取り組んでいます。
今回はサッポロビール 上席執行役員 マーケティング本部長の坂下聡一さんをインタビュー。同社のビジョン「誰かの、いちばん星であれ」を体現する「いちばん星マーケティング」の取り組みから、「黒ラベル」や「ヱビスビール」など主力ブランドの戦略、さらにマーケターとして大切にしている信条まで、多岐にわたるお話を伺いました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)
目次
サッポロビールの「いちばん星マーケティング」
――サッポロビールの上席執行役員 マーケティング本部長とは、どんな期待役割を担い、どのような業務を行うのですか。
サッポロビールのマーケティング本部には、4つの部署があります。まず、商品カテゴリーごとの事業部として「ビール&RTD事業部」と「ワイン&スピリッツ事業部」。「RTD」はReady To Drinkの略で、缶チューハイのようにフタを開けてすぐに飲めるアルコール飲料を指します。

残りの2つは機能部門で、商品・サービス開発やマーケティングリサーチなどを行う「顧客体験デザイン部」と、商品技術開発を担当する「商品・技術イノベーション部」です。
サッポロビールには国際事業もありますが、私は国内酒類事業における戦略の策定や事業計画の達成を担っています。これが1つめの役割です。
「サッポロ生ビール黒ラベル」や「ヱビスビール」といった各ブランドのマーケティング方針の策定は、各事業部の部長に権限を移譲し、それぞれが遂行しています。一方で、全体のマーケティング方針の策定については、私が担当しています。これが2つめの役割です。
3つめの役割として、強いマーケティング組織の構築も担っています。
したがって、「国内酒類事業の戦略策定と事業計画の達成」「マーケティング方針の策定」「マーケティング組織の構築」の3点が、私の主な役割です。
――サッポロビールのマーケティングとは、どのようなものですか。
サッポロビールのマーケティングは、ビジョンの実現に向けた市場創造型、あるいは市場を牽引するようなマーケティングだと考えています。
当社には「誰かの、いちばん星であれ」というビジョンがあります。この「誰か」とは、お客さまと直接向き合う社員にとってはお客さまのことを指し、バックオフィスなど社内環境の整備に取り組む社員にとっては、社内の仲間やパートナーが該当すると思います。いずれにせよ、それぞれの社員が向き合う「誰か」にとっての「いちばん」になろうという意味がビジョンに込められているのです。
社員一人ひとりの「いちばん」が積み重なれば、その総和としてサッポロビール全体の成長へとつながるはず。このような想いが「誰かの、いちばん星であれ」というビジョンを形づくっています。
マーケティング本部では、こうした考え方をサッポロビールならではの取り組みとして、「いちばん星マーケティング」と呼んでいます。

関心の薄い人にも届ける「偶発的な接点」の重要性
――「いちばん星マーケティング」、素敵な言葉ですね。
「いちばん星マーケティング」には、大きく3つの役割があります。1つめは、新しいお酒の魅力を“カイタク”することです。サッポロビールの原点は、北海道の開拓使麦酒醸造所にあり、そのルーツから “カイタク”という言葉を使っています。
2つめは、ブランドを選んでいただくための独自の理由を“カイタク”することです。つまり、お客さまにとっての「なぜサッポロビールなのか」という選択理由を、私たち自身の手で見いだしていくという意味を込めています。
3つめは、熱狂的なファンを“カイタク”することです。このように、「いちばん星マーケティング」では、「新しいお酒の魅力」「独自のブランド選択基準」「熱狂的なファン」の3つを“カイタク”することで、ビジョンとサッポロビールならではのマーケティングをつないでいこうとマーケティング本部内で共有しています。
――サッポロビールの中でも「黒ラベル」と「ヱビス」は代表的な商品だと思いますが、顧客の“いちばん星”になるために、それぞれどのようなマーケティングを行っていますか。
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