facebook twitter hatena pocket 会員登録 会員登録(無料)
インタビュー

キユーピー 執行役員 マーケティング本部長・中島健が語る「100年ブランドの価値を問い直す、マーケティングの変革」

最終更新日:2026.03.11

The Marketing Native #84

キユーピー

執行役員 マーケティング本部長

中島 健

100年以上にわたり、食卓を支えてきたキユーピー。

圧倒的なブランド資産を持つ一方で、事業環境が激しく変化する時代を迎え、同社はマーケティング機能を強化して、バリューチェーン全体を見渡した意思決定と実行スピードの向上に取り組んでいます。

100年かけて磨き上げ、積み重ねてきた価値を、今どのように見つめ直そうとしているのでしょうか。

今回は、キユーピー 執行役員 マーケティング本部長の中島健さんに、取り組みの狙いと手応え、これからの挑戦について伺いました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

危機感から始まった、マーケティング本部独立の背景

――キユーピーがマーケティング本部を新設したのが2024年10月とのこと。どのような背景や目的があったのでしょうか。

当社にはそれまで、家庭用本部とフードサービス本部という2つの営業本部があり、それぞれが本社組織として営業オペレーションに関する指示命令系統の最上位に位置していました。

キユーピー 執行役員 マーケティング本部長 中島健さん

しかし、業界や市場が時代とともに大きく変化する中で、営業機能はあくまでバリューチェーン全体の一部であるとの認識が強まりました。市場環境や顧客ニーズを全社的・多角的に捉え、バリューチェーン全体の最適化を図るためには、従来の営業中心の組織では対応が不十分。もっと合理性を高める必要があるとの判断に至り、2024年10月の組織再編で営業本部を発展的に解消し、「マーケティング本部」と「販売戦略本部」を新設しました。

マーケティング本部は、上流の戦略立案から具体的な戦術設計・施策設計までを担う組織です。一方、設計された戦略・施策を実際の現場で実行するのが販売戦略本部です。どちらも事業の成果にとって重要な機能であり、それぞれの役割に特化することで、従来以上に高品質な提案や顧客対応が可能になると考えています。

――これまでは日本の企業でよく見られるように、営業本部の中にマーケティングを担う部署が存在していたところを、形としてはマーケティング本部が独立したわけですね。そこには危機感のようなものがあったのでしょうか。

私自身が提案して立ち上げた組織ではないため、あくまで推測と、一部聞いている話になります。2020年から2021年、2022年にかけてコロナ禍が続き、さらにウクライナ情勢などの地政学リスクの顕在化や、大規模な鳥インフルエンザによる卵業界への深刻な影響など、社会的に大きな出来事が相次ぎました。こうした状況を受けて、会社全体としての危機感が高まり、今後も持続的な成長を続けていくために、会社の機能はどうあるべきかというテーマが必然的に浮上したのだと思います。

その結果として、マーケティングの機能を独立させ、より強化すべきだという考えに至ったのではないでしょうか。つまり、それまでの体制が間違っていたということではなく、持続的な成長を見据え、より強い組織になるための機能再編であったと理解しています。

――ありがとうございます。マーケティング本部長として、どのような期待役割を担い、どんな業務を行っているのですか。

私は営業の経験は多くありませんが、研究開発や海外展開を含むグループ会社の経営など、比較的幅広い領域を手がけてきました。当社の中では、ややユニークな経歴を持っていると思います。

そうした経験を踏まえ、全社最適の視点で事業運営のバランスを取りながら、合理性をさらに追求していくことが、おそらく期待されている役割だと考えています。

加えて、100年以上にわたって事業を続けてきた当社には、他社にはあまり見られない多くの蓄積があります。その蓄積された資産をあらためて再定義し、プロセスの変革を通じて業務の仕組みそのものを変えていくことも、重要な期待役割だと捉えています。

キユーピー 執行役員 マーケティング本部長 中島健さん

海外R&Dと経営経験が育てた、データドリブンなマーケティング観

――重責ですね。中島さんは新卒でキユーピーに入社されたそうですが、どのような実績を経てマーケティング本部長に就任されたのでしょうか。

自分の経歴を振り返ると、入社当初は主に缶詰やレトルト食品など、調理系商品の研究開発を幅広く担当させていただきました。その後、営業の勉強を数年経験したのち、海外R&Dの責任者を任されることになりました。これが、私のキャリアにおける大きな転機だったと思います。

震災の年である2011年10月に、「これから海外に力を入れていく」という方針が示されました。今でこそ世界各国に拠点がありますが、当時は東南アジアに1〜2社、中国に2社、アメリカに1社ほどしかありませんでした。その後、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアと、毎年のように新しい会社が次々と立ち上がりました。

会社を立ち上げるとなると、まずは商品を現地で製造できる体制を構築する必要があります。原料も違えば、味の好みも違います。日本の商品をそのまま持ち込んでも受け入れられにくいため、現地の方の嗜好に合わせてアレンジした商品を開発しなければなりません。各国で拠点を立ち上げた後は、経営の立場として、毎年新商品を市場に投入することも必要です。

そうした業務の中で、毎月のように各拠点を回り、各社の社員の方々と、時にはお客さまも交えながら、手探りで試行錯誤を続ける日々でした。最終的に商品を形にするのは技術的な仕事ですが、その前段階にある市場理解や企画構想の部分を数多く経験させてもらったことが、現在マーケティング組織を指揮する上でも大いに役立っています。

――2018年からはタイ法人の社長も経験されているとのこと。現地の方々の中に入って仕事を進めていくのは、得意なタイプなのでしょうか。

それほど得意というわけではありません。ただ、ポイントが1つあって、それは当時も現在も基本的には同じなのですが、まずはデータやファクトをもとに目線を揃えることが大事です。数字は万国共通で、どこへ行っても1は1、0は0、100は100です。「100」と書けば、誰もが100だと理解します。

ファクトベース、データドリブンで現状認識の目線を揃え、その上でどうするかという対策を考えていく。このやり方は、日本でも海外でも変わりません。

――ありがとうございます。マーケティング本部が新設されてから1年以上が経過しました。この間の成果と、見えてきた課題は何でしょうか。

当社は2025年から新たな中期経営計画に入り、「成熟市場での経営効率化と成長領域への投資加速」をテーマに掲げています。国内においては構造改革をさらに加速し、高収益体質へと転換していく必要があります。

当社には多様な商品があり、長年にわたってご愛顧いただいている主力商品もあれば、特定のニーズに留まっている商品も存在します。そのため、それぞれの商品について、将来にわたってお客さまに喜んでいただける価値とは何かを考える必要があります。一般的にお客さまにとっての価値は、何十年という歳月の中で少しずつ変化していくものですが、私たちは自社の商品を長く見続けているため、「変わっていない」と思い込みがちです。また、原材料費や人件費が上昇する中で、従来と同じ価格で提供し続けることも難しくなっています。

そうした現実と向き合いながら、現在の販売価格において、お客さまに価値を感じていただくためには何を強化すべきなのか、それをどのように伝えていけばいいのか。そのような観点を、あらためてしっかりと考えていく必要があります。

「キユーピー マヨネーズ」や「深煎りごまドレッシング」といった主力商品も例外ではありません。私たちが商品の価値だと捉えている点が、お客さまに必ずしも同じように認識されていなかったり、十分に伝わっていなかったりするケースが相当あることが、調査を通して見えてきました。そうした認識のずれを課題として捉え、強化を進める中で、新商品が生まれています。なかでも「具だくさんレモンタルタル」や「深煎りごまドレッシング カロリーハーフ」は、賞をいただくことができました。

これは「数多くの新商品を出した結果、たまたま1つ、2つが当たった」ということではなく、ある程度狙いを定めて生み出した商品です。経営層からは、さらに大きなヒットへの期待も寄せられていますが、まずはバットに当たらなければ飛距離も出ません。その意味で、初年度から複数の商品が評価され、賞をいただけたことは、1つの手応えとして受け止めてよいのではないかと考えています。

キユーピー 執行役員 マーケティング本部長 中島健さん

100周年の先にある、次の挑戦への視点

――課題はどんなことでしょうか。

課題は、変革のスピードをさらに上げていくことです。商品開発や広告宣伝など、さまざまな意思決定が社内で行われていますが、それぞれについて合理性を担保しつつ、意思決定から実行までのスピードを高めていく必要があると感じています。

――「選択と集中」によってスピードを上げていく、ということでしょうか。

この記事は会員限定です。無料の会員に登録すると、続きをお読みいただけます。
残り4,607文字

・キユーピーのマーケティングの特徴
・物価高騰に向き合う、調味料マーケティングの難しさ
・変革のために必要なリーダーシップとレジリエンス

Profile
中島 健(なかじま・けん)
キユーピー株式会社 執行役員 マーケティング本部長。
1993年東京農工大学卒業。キユーピー入社後は調理食品を中心に研究開発業務に従事。2011年以降は同社の海外進出戦略や商品開発・マーケティングの側面からプロジェクトを主導し、さまざまな拠点の進出をサポート。2018年からタイ法人の社長を経て2021年に帰任。リサーチおよび開発部門を中心にキユーピーのマーケティング精度向上に取り組む。
2024年10月より新設部門であるマーケティング本部長に就任。

 

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
執筆記事一覧
週2メルマガ

最新情報がメールで届く

登録

登録