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インタビュー

サッポロビール マーケティング本部長 坂下聡一が語る「ビールの新しい魅力と熱狂的なファンをカイタクする、いちばん星マーケティングとは」

最終更新日:2025.09.25

The Marketing Native #79

サッポロビール

上席執行役員 マーケティング本部長

坂下 聡一

渇いたのどを潤す冷たいビール。日本のビール市場は、成熟期を迎えた今も、消費者の嗜好の多様化やノンアルコール市場の拡大、酒税改正など、大きな変化の波に直面しています。こうした激しい環境の中で、サッポロビールは独自のマーケティング戦略を掲げ、広告と体験によってファンを拡大し、ブランドの成長に取り組んでいます。

今回はサッポロビール 上席執行役員 マーケティング本部長の坂下聡一さんをインタビュー。同社のビジョン「誰かの、いちばん星であれ」を体現する「いちばん星マーケティング」の取り組みから、「黒ラベル」や「ヱビスビール」など主力ブランドの戦略、さらにマーケターとして大切にしている信条まで、多岐にわたるお話を伺いました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

サッポロビールの「いちばん星マーケティング」

――サッポロビールの上席執行役員 マーケティング本部長とは、どんな期待役割を担い、どのような業務を行うのですか。

サッポロビールのマーケティング本部には、4つの部署があります。まず、商品カテゴリーごとの事業部として「ビール&RTD事業部」と「ワイン&スピリッツ事業部」。「RTD」はReady To Drinkの略で、缶チューハイのようにフタを開けてすぐに飲めるアルコール飲料を指します。

坂下聡一さん

残りの2つは機能部門で、商品・サービス開発やマーケティングリサーチなどを行う「顧客体験デザイン部」と、商品技術開発を担当する「商品・技術イノベーション部」です。

サッポロビールには国際事業もありますが、私は国内酒類事業における戦略の策定や事業計画の達成を担っています。これが1つめの役割です。

「サッポロ生ビール黒ラベル」や「ヱビスビール」といった各ブランドのマーケティング方針の策定は、各事業部の部長に権限を移譲し、それぞれが遂行しています。一方で、全体のマーケティング方針の策定については、私が担当しています。これが2つめの役割です。

3つめの役割として、強いマーケティング組織の構築も担っています。

したがって、「国内酒類事業の戦略策定と事業計画の達成」「マーケティング方針の策定」「マーケティング組織の構築」の3点が、私の主な役割です。

――サッポロビールのマーケティングとは、どのようなものですか。

サッポロビールのマーケティングは、ビジョンの実現に向けた市場創造型、あるいは市場を牽引するようなマーケティングだと考えています。

当社には「誰かの、いちばん星であれ」というビジョンがあります。この「誰か」とは、お客さまと直接向き合う社員にとってはお客さまのことを指し、バックオフィスなど社内環境の整備に取り組む社員にとっては、社内の仲間やパートナーが該当すると思います。いずれにせよ、それぞれの社員が向き合う「誰か」にとっての「いちばん」になろうという意味がビジョンに込められているのです。

社員一人ひとりの「いちばん」が積み重なれば、その総和としてサッポロビール全体の成長へとつながるはず。このような想いが「誰かの、いちばん星であれ」というビジョンを形づくっています。

マーケティング本部では、こうした考え方をサッポロビールならではの取り組みとして、「いちばん星マーケティング」と呼んでいます。

坂下聡一さん

関心の薄い人にも届ける「偶発的な接点」の重要性

――「いちばん星マーケティング」、素敵な言葉ですね。

「いちばん星マーケティング」には、大きく3つの役割があります。1つめは、新しいお酒の魅力を“カイタク”することです。サッポロビールの原点は、北海道の開拓使麦酒醸造所にあり、そのルーツから “カイタク”という言葉を使っています。

2つめは、ブランドを選んでいただくための独自の理由を“カイタク”することです。つまり、お客さまにとっての「なぜサッポロビールなのか」という選択理由を、私たち自身の手で見いだしていくという意味を込めています。

3つめは、熱狂的なファンを“カイタク”することです。このように、「いちばん星マーケティング」では、「新しいお酒の魅力」「独自のブランド選択基準」「熱狂的なファン」の3つを“カイタク”することで、ビジョンとサッポロビールならではのマーケティングをつないでいこうとマーケティング本部内で共有しています。

――サッポロビールの中でも「黒ラベル」と「ヱビス」は代表的な商品だと思いますが、顧客の“いちばん星”になるために、それぞれどのようなマーケティングを行っていますか。

サッポロビールには、「黒ラベル」や「ヱビス」のほかにも、「サッポロラガービール」「クラシック」「SORACHI 1984」「白穂乃香」「エーデルピルス」など、個性的なビールブランドが多数あります。それぞれのブランドには固有の個性があり、長年にわたってお客さまと紡いできた物語があります。

ブランドの個性と物語を、具体的なマーケティングアクションに落とし込んでいるのが、「広告」と「体験」です。ここで言うブランドの個性とは、ブランドが掲げるビジョンや姿勢を伝えていくことだと思います。

例えば「黒ラベル」では、「大人をカイタクする生ビール」「大人の生」「丸くなるな、☆星になれ。」などのメッセージを広告を通して発信しており、その代表的な事例が「大人エレベーター」のテレビCMです。

ブランドの個性や想いは広告を通して伝える一方で、物語については実際の体験という形で提供しています。「黒ラベル」も「ヱビス」も、現在はリアルな体験の提供にこだわって、力を入れているところです。

今年は、「THE PERFECT 黒ラベル WAGON」というイベントを全国13カ所で開催しています。おいしさにこだわった“完璧な黒ラベル”を味わいながら、「大人エレベーター」のCMで表現している“大人”の世界観を体験できるイベントで、大変ご好評をいただいています。

「THE PERFECT 黒ラベル WAGON」のイメージ。

もう1つは、「THE PERFECT 黒ラベル BASE」という滞在型のブランド拠点です。完璧な生ビールを目指して進化を続ける黒ラベルの“今”を体感できる場として、6月から約7カ月間、大阪で開催しています。

「THE PERFECT 黒ラベル BASE」のイメージ。
https://www.sapporobeer.jp/beer/base2025/

「WAGON」や「BASE」のような体験拠点は、駅の近くや人通りの多い場所で実施しています。通りがかりに偶然目にした人が、「なんかいいな」「ちょっと体験してみようかな」と感じて、黒ラベルと接点を持ち、実際に飲んでいただく。そんな偶発的な体験づくりを黒ラベルでは大切にしています。

なぜ偶発的な体験づくりが大切かというと、世の中が急速に変化し、パーソナライズされた形で情報が届く一方で、自分の興味・関心のある分野以外の情報が、なかなか入ってこなくなっているからです。そうした時代において、ビールに強い関心があるわけではない方々に情報を届けることが、非常に難しくなっていると感じます。

――なるほど。何事も、より“パーソナライズ”されるのが良いと思っていましたが…。

もちろん、良い面もあります。ただ、ノンユーザーやライトユーザーなど、関心があまり高くない方々にどう関心を持ってもらうかという場面では、パーソナライズはむしろハードルが高くなりがちだと感じます。

そのため、リアルの場で偶然出合い、「ちょっと気になったから飲んでみた」という体験を、さまざまな場所で提供していくことが重要だと考えました。そのような取り組みを重ねることで、それまでは無関心だった方々が、少しずつ関心を持ってくれるようになるかもしれません。

さらに、「なんか面白そうだな」と感じて、実際に飲んでみて、「おいしい」と気づいたときに、ファンとしての熱量を高めてくださる方がいらっしゃるかもしれません。そうした偶発的な接点を、いかに生み出していけるか――そこに今、注力しているところです。

坂下聡一さん

「WAGON」と「BASE」が生み出した黒ラベルイベントのインパクト

――「WAGON」はワゴン車で全国を移動し、「BASE」は拠点を意味しているのですよね。実際の成果はいかがでしょうか。

売り場展開の要であるカバー率や配荷に関しては、弱いと言われていた西日本を中心に、着実に伸びてきています。こうした成功事例が出てくることで、社員の間でも黒ラベルへの自信が深まり、「もっと黒ラベルを盛り上げよう」という機運が高まって、その結果、実際に数字としても成果が現れてきています。

もちろん、リアル体験イベントだけで売り上げが伸びたわけではありません。営業担当による各エリアの現場で面を広げる、つまり黒ラベルを購入できる場所を増やす活動をはじめ、各部署の取り組みがすべてかみ合ったことによるものです。

これから人口がさらに減少していくことが確実視される中で、黒ラベルは成長を続けています。その点において、他ではあまり見られないユニークな動きをしているブランドになっています。

実際にイベントでどれくらいお客さまの数が増えたかというと、黒ラベルの過去の体験イベントの累計来場者数は、イベント協賛を除いて、2025年6月末時点で約100万人に上ります。

あくまでデータ上の話ではありますが、お客さまの数が増えなければ売り上げも伸びません。そう考えると、しっかりと数字が伴ってきていますし、ブランドに対する共感も高まり、良い循環が生まれていると感じます。

加えて、お客さまの構成に関するデータを見ると、新たなお客さまにご購入いただいていることがわかります。もちろん全体としてはコアユーザーの割合が多いものの、コアユーザーは絶えず減少していくと考えると、ライトユーザーや20代の若年層のお客さまが増えている点は、非常に重要なポイントです。こうした変化は、イベント施策を継続して注力してきた成果と捉えています。

――これは重要な施策になっていますね。

ありがとうございます。広告や体験イベント、営業現場での取り組みなど、すべてがうまく連動した結果として、黒ラベル缶の売り上げは2010年から約2倍に伸びています。自社だけでなく、他社さまも含めて、売り上げが2倍に伸びているビールブランドは、ほとんど存在しないのではないかと思います。

――わかりました。では、ヱビスビールについてはいかがでしょうか。

ブランドの個性や物語を、広告や体験へと落とし込む基本的な考え方は、黒ラベルと共通しています。特徴的なのは、ブランド名に表れているように、ヱビスビールと恵比寿エリアとの関係性の強さです。サッポロビールの本社が入っている恵比寿ガーデンプレイスも、もともとは100年以上前に創業した「日本麦酒醸造会社」のビール工場でした。

さらに、ビールを出荷するために敷設した線路により「恵比寿」という駅名が誕生し、その駅名が街の名前にもなりました。「恵比寿」という地名は、ビールブランドに由来しているのです。こうした歴史的背景もあり、ヱビスビールと恵比寿エリアの関係性は非常に強固です。

昨年(2024年)4月3日に、35年ぶりに恵比寿でのビールづくりを再開する形で、本社地下に「YEBISU BREWERY TOKYO」をオープンしました。ヱビスビール発祥の地で再びその味を楽しめる場として、多くのメディアに取り上げられ、大きな話題となりました。

「YEBISU BREWERY TOKYO」
https://www.sapporobeer.jp/yebisu/communication/yebisu-brewery-tokyo/

この施設は、WAGONのように移動するスタイルではなく、ヱビスビールの新たな提案を体験できる常設の拠点として運営しています。初年度には約23万人のお客さまにご来場いただきました。そのうち20〜30代の若い世代が約6割を占めており、ヱビスビールの新しい接点が着実に生まれていることを実感しています。

営業現場でも「YEBISU BREWERY TOKYO」を活用しながら営業活動を行っていることもあり、物価高などの影響で全体的に高価格帯のプレミアムビール市場が伸び悩む中にあっても、ヱビスビールの売り上げは堅調に推移しています。

ヱビスビールは、もともとブランドの認知度が高く、「ハレの日に飲む、ちょっとぜいたくなビール」というイメージを持たれてきました。

しかし、物質的な豊かさよりも心の豊かさが重視されるようになってきたという時代の変化もあり、ヱビスビールでも数年前からブランドの再定義に取り組んでいます。人々の心を満たし、前向きな一歩を後押しできるようなビールブランドを目指し、コミュニケーションの面でも新たなブランドテーマとして「たのしんでるから、世界は変えられる。」というタグラインを掲げました。

「YEBISU BREWERY TOKYO」の様子。

――ヱビスといえば、「ちょっとぜいたくなビール」という印象が強いですよね。

お客さまだけでなく、社内にもそのようなイメージを持っている人は多いと思います。ただ、そうしたイメージを変えていこうという強い意志が、今まさに必要だと感じます。

もちろん、私たちが「新しいビールの価値をつくりました」「ブランドイメージを変えました」と伝えたとしても、お客さまの認識がすぐ変わるわけではありません。時間をかけて丁寧に取り組む必要があります。現在は、このブランドの再定義をどのようにアップデートしていくか、日々試行錯誤を重ねているところです。

坂下聡一さん

「大人エレベーター」が示した市場競争軸の転換

――素晴らしい取り組みですね。

黒ラベルでも同様です。「大人エレベーター」のコミュニケーションは2010年から始まりましたが、それまでビール市場の主な競争軸は「味」と「価格」でした。味においては「コクやキレがある」「リッチな味わい」などが打ち出され、価格においては発泡酒や新ジャンルを例に「お値打ちです」と訴求されました。

そうした競争軸とは異なるアプローチとして、ビールの世界観そのもので選ばれる存在を目指し、2010年からコミュニケーションを転換して、現在も続いています。

――わかりました。次に、シェア争いについてはどうお考えですか。強力な競合が存在する中で、マーケティング本部長としてシェア拡大は重要な役割のひとつかと思います。

シェアの拡大は目的ではなく、あくまでも結果であると捉えています。そのため、シェアを上げること自体を目的化して予算を投入するようなことは考えていません。

とはいえ、シェアはお客さまからの支持の総和だと言えます。つまり、シェアが高いということは、それだけ多くのお客さまがサッポロビールの魅力を感じ、選んでくださっているということです。だからこそ私たちは、「ビールの魅力をさらに高めること」や「ビールの新たな魅力を創出すること」に注力しています。

繰り返しになりますが、鍵となるのは「広告」と「体験」です。新たなビール体験を提供することで、「ビールっていいな」ではなく、「サッポロビールっていいな」「黒ラベルっていいな」「ヱビスビールっていいな」と感じていただける方を増やしていくことが、最終的にはシェアの拡大につながると思います。

したがって、マーケティング戦略としては、ビールの新しい魅力をどう創出するか、新しい体験をどう設計するかが重要であり、その実現に向けてしっかりと投資をしていくことが必要だという認識です。

――短期および中期の目標について教えてください。

中期的な目標は、繰り返しになりますが、「ビールの魅力を高め、新たな体験を創出すること」です。言い換えれば、新しい顧客価値の創造に取り組むということでもあります。

その実現のためには、メディア体験イベントなどの限定的なアプローチにとどまらず、飲食店での飲用体験や小売店店頭での購買体験なども含め、幅広い顧客接点をつくることが重要です。そうした体験を通して、「サッポロビールっていいな」「魅力的だな」と感じていただけるお客さまを増やしていきたいと思います。

このような顧客体験の設計こそが、最終的には顧客数の拡大につながると信じており、私たちは現在、その鍵を「体験」に見いだしています。

一方、短期的には、2026年10月に予定されている酒税改正が大きなトピックとなります。ビール類の酒税は2020年、2023年、2026年の3段階で税率の統一が進められており、来年がその最終段階です。

この改正により、ビールは減税される一方で、発泡酒や新ジャンルは増税され、最終的には税率が一本化されます。ビールの減税は、業界にとって大きな変化であり、発泡酒の価格が上がり、ビールの価格が下がることで、お客さまの購買行動に変化が生じるのは確実と見ています。

この流れは2026年10月以降、2027年にかけて続いていくと予想され、私たちは酒税改正という大きな環境変化を、サッポロビールのブランドポテンシャルを高める絶好の機会と捉え、戦略的に取り組んでいきます。

また、ビール以外の取り組みとしては、ノンアルコール飲料の強化が挙げられます。現在、サッポロビールのノンアルコール飲料は市場シェアがそれほど高くないため、短期・中期を問わず、健康的に楽しんでいただけるような新たな提案を進めていきます。

坂下聡一さん

マーケターとして大切にしている3つの信条

――ありがとうございます。ここからは坂下さんご自身について伺います。サッポロビールには多くの社員がいらっしゃる中で、上席執行役員 マーケティング本部長に抜擢されたのは、やはり高い実績をお持ちだからだと思います。ご自身で「これは胸を張れる」と感じる成果があれば、教えてください。

“胸を張れる”かどうかで申し上げるのは恥ずかしいのですが、あえてひとつ挙げるとすれば、新商品開発に関わってきたキャリアかと思います。私はもともとR&D部門の出身で、研究開発を担当していました。その後、商品開発のプロジェクトに参加し、それが新商品開発部という組織へと発展する中で、マーケティングのキャリアを積んできました。

そのため、新商品開発という“ゼロイチ”のキャリアが長く、これまでには売れた商品もあれば、残念ながら売れなかった商品もあります。例えば、現在は製造していませんが、日本で初めてノンアルコール飲料の特定保健用食品(トクホ)を実現したり、プリン体0.00の商品を初めて開発したりといった取り組みも行ってきました。

売り上げ実績などとは少し違いますが、そうした「史上初」の商品を世に送り出してきたことには、自負を持っています。マーケティング本部長に抜擢された背景には、これからノンアルコール飲料を含めて新たな提案が求められる中で、私がこれまでゼロからの立ち上げをいくつか経験してきたことへの期待があるのではないかと思います。

――マーケターとして大切にしている価値観や信条を教えてください。

本部長になる以前から、部門を統括する立場として、自分が大切にしている信条について話す機会がありました。中でも特に重視しているのが、3つのポイントです。

1つめは、「顧客を知ること」。お客さまの“生の声”をしっかりと受け止め、顧客起点で物事を考えながら、インプットとアウトプットのサイクルを絶えず回し続けていく。このプロセスを通して、顧客理解を深めることが非常に重要だと考えています。

2つめは、さまざまな立場から物事を捉え、多角的な視点を持つことです。時間軸の意識、俯瞰とミクロの両方の視点、多様な切り口、視座の高さや視野の広さなどを常に意識しながら、思考を深めることが大切だと思います。また、変化が求められる局面では、自分がこれまでに学んできたことを一度アンラーニングし、先入観にとらわれずに物事を考える姿勢も重要だと感じます。

3つめは、強い想い、いわば“パッション”を持つことです。想いを明確に言語化し、仲間を巻き込みながら行動に移すこと。考えるだけでなく、こうした実行力もとても大切だと思います。

以上の3つが、私が常に大切にしている信条です。

――本日お話を伺って、坂下さんがパッションにあふれる方だということがよく伝わってきました。

ありがとうございます。加えて、「マーケティングとは何か?」という問いについて、私なりの考えをお伝えすると、さまざまな定義がある中で、私は「顧客を幸せにすること」だと解釈しています。

マーケティングにおける「WHO・WHAT・HOW」、つまり“誰に・何を・どうやって”という要素についても、社内でレクチャーする際には、“誰に”を「誰のために」と置き換えて考えてみてくださいと伝えています。

その施策は誰のために行うのか、誰に幸せになってほしいのか――それを考えることが、マーケターにとって重要な視点だと思います。

坂下聡一さん

ビジョンを原動力に、未来を切り拓く

――わかりました。最後に、マーケティング本部長として、これからサッポロビールをどのようにリードしていくのか、抱負をお聞かせください。

今後は、ビジョン・オリエンテッドな考え方をより一層大切にしていきます。最初のほうで触れた「サッポロビールのマーケティングとは何か」という問いに対する私の答えは、「ビジョンを実現するためのマーケティング」です。その実現に向けて、いかにビールの魅力を高められるかに注力し、サッポロビールの価値をさらに広げていきます。

これはマーケティング単体では実現が難しく、商品開発や営業、さらにはそれらを支えるバリューチェーンの各部門がしっかりと連携し、かみ合っている状態が不可欠です。

そうした組織全体の連動をつくり上げることで、会社全体を成長させていくのも私の役割のひとつだと思います。その成長とともに、サッポロビールの社員一人ひとりがすべてのブランドに自信を持てる、そんな状態の実現を目指します。

ブランドに自信があれば、必ず良い循環が生まれます。そうした好循環の構造をこれからも築いていきたいと思います。

――本日はありがとうございました。

坂下聡一さん

Profile
坂下 聡一(さかした・そういち)
サッポロビール株式会社 上席執行役員 マーケティング本部 本部長。
1999年サッポロビール入社。R&D部門を約6年経験後、マーケティング部門で新商品企画を12年担当。その後、マーケティングリサーチや戦略企画部門を経て、2022年より新商品開発の統括を担当。2025年3月上席執行役員 マーケティング本部 本部長に就任。

サッポロビール株式会社
https://www.sapporobeer.jp/

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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